
自由民主党と日本維新の会による連立で出発した高市早苗政権に対し、韓国がメディアを中心に警戒感を露(あら)わにしている。歴史認識や防衛力増強などで高市氏や維新が持つ「タカ派」のイメージが広がっているためで、北朝鮮や中国への姿勢を巡り日韓間に齟齬(そご)が生じる恐れもある。(ソウル上田勇実)
「『女性版安倍(=安倍晋三元首相)』と呼ばれる強硬保守の高市首相が、就任と同時に防衛費増額と防衛力増強に拍車を掛けている。安倍首相の念願だった『戦争ができる国』への転換を狙っているという分析がある」
韓国保守系ケーブルテレビ局のTV朝鮮は先週、高市政権発足についてこう伝えた。日韓両国は先月、中国抗日戦勝80周年行事に揃(そろ)って参加した中朝露首脳の姿を通じ、軍事力を含む3カ国の連携強化を見せつけられたばかり。それだけに韓国保守系メディアまでもが中朝露の脅威に備えようとする日本の保守政権に没理解という点には驚かされる。
同じく保守系のはずだった大手紙・東亜日報は論説主幹の署名入りで、高市政権発足の数日前に亡くなった村山富市元首相と比較して、「日本の良心が去った後の空席に“村山狙撃手”の首相が即位」というタイトルのコラムを掲載した。
記事は、村山氏が首相時代の1995年8月15日、戦後50年の終戦記念日に当たり、「アジア諸国に対する多大な損害と苦痛を与えた」などとして「反省とお詫(わ)び」を表明した「村山談話」を高く評価した上で、村山氏死去を前後して「村山談話に対する批判を自身の政治的トレードマークの一つとした」高市氏の首相就任が急浮上したことを「単なる歴史の偶然なのか、それとも不吉な伏線なのか」と記した。高市氏は靖国神社の秋季例大祭期間に参拝を見送ったが、それでも同紙は高市氏への警戒感を露わにしている。
日韓間の不幸な歴史を巡り、日本側が政府を代表して踏襲してきたはずの「反省とお詫び」について、「物足りない」「真実味がない」と言い続ける韓国側の論法は、左翼史観に基づいた革新陣営による反日の常套(じょうとう)手段で、この種の問題に感情的になびきやすい韓国国民を巻き込んできた。左派系メディアならいざ知らず、かつて保守の論陣を張った同紙の看板コラムがこれに加勢するようなスタンスを取るとは驚きだ。
李在明大統領は日韓関係にも「実用主義」を適用し、未来志向を強調しているが、対北・対米政策を巡り李氏が任命した国内の「自主派(=革新派)」と「同盟派(=保守派)」がぶつかり、いずれ「自主派」が主導権を握るだろうとの見方が出ている。
元高麗大学教授の南成旭氏は大手紙への寄稿で、自主派が主導権を握る理由として「自主派は同盟派より李大統領との関係がはるかに長く深い」とし、自主派は「政務感覚に長けている」上に自主派の長老政治家グループの「影響力が強く」、「強硬な与党指導部や李氏を支持する強硬派が自主派を支援している」ことに注目している。

自主派が主導権を握った場合の日韓関係について、南氏は本紙取材に「関係改善が遠ざかる恐れもある」と述べた。李政権の対日「実用」外交が自主派主導で反日に旋回する可能性をはらんでいるためだ。
尹錫悦前政権は元徴用工問題を巡り、日本企業による賠償を肩代わりする「第三者弁済」という政府解決策を打ち出したが、担当してきた「日帝強制動員被害者支援財団」のトップが8月突然辞表を提出したことで、その継続を危ぶむ声も出ている。
戦前、山口県宇部市沖の海底にあった長生炭鉱の水没事故で犠牲になった韓国・朝鮮人の遺骨発掘・返還問題では、8月に現場から人骨が発見されたことを受け、日韓の市民団体が真相究明や賠償なども視野に入れて勢いづき、外交問題化しかねない状況となっている。しかも北朝鮮がこれに加勢する構えだ。
自主派が反日を主導するための火種はあちこちでくすぶっている。





