
韓国は日本・欧州連合(EU)と同様に、トランプ米政権との交渉で米国が要求する関税率を15%に抑えることに成功し、ひとまず安堵(あんど)が広がっているが、トランプ流ディールには苦しめられたようだ。李在明大統領は近くトランプ氏との首脳会談に臨む見通しだが、李氏の外交・安保政策などを巡りトランプ氏からさまざまな要求を突き付けられる可能性もあり、難しい舵(かじ)取りを迫られそうだ。(ソウル上田勇実)
「歯がグラグラする(ほどいら立った)ので黙っていた。(中略)しゃべったら悪影響が及ぶから」
米国との関税交渉が妥結した直後、李氏は幹部公務員を集めて行われた講演で胸の内をこう明かした。相手の事情や国際慣習を考慮せず、子供のように自分の利益を最優先に無理難題を押し付けてくるトランプ氏のやり方には、さすがの李氏も閉口した模様だ。
かつて「韓国のトランプ」という異名を持つほど歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで有名になっていった李氏。似た者同士言いたいことを言い始めればトランプ氏の機嫌を損ねるのは目に見えていた、ということだったのかもしれない。
韓国は昨年12月の戒厳令以降、今年6月の大統領選で李氏が当選するまで事実上のトップ不在が長く続いた。李政権は発足からわずか2カ月足らずで関税交渉を妥結させた。ただ、先駆けて合意に至った日本というモデルケースがあったことが大きかった。トランプ氏が中国との関税交渉を前に韓国との交渉も早く妥結したかったという事情もあったとみられる。
今後の焦点は、トランプ氏が「2週間以内」と言及した李氏との首脳会談だ。トランプ氏は自身のSNSに「韓国は巨額の投資を約束し、その投資額は李大統領がホワイトハウスを訪問した時の首脳会談で発表する予定」と書き込んだ。
韓国は交渉で、得意の造船分野での協力を含む総額3500億ドル(約52兆円)を米国に投資することを約束したが、「問題は投資規模がこれで終わりなのか」(韓国メディア)ということだ。首脳会談で韓国企業による追加投資が求められる可能性が浮上しており、李政権にとっては不安材料だ。
一方、首脳会談では、李氏に付きまとう親中朝路線を巡り、韓国側がそれを払拭する演出が行われるのではないかとの見方が出ている。特に中国を巡ってはホワイトハウスが李氏当選の祝賀メッセージに「中国の影響力行使を憂慮し、反対する」とわざわざ言及した。トランプ氏の反中感情を刺激しないためには、李氏に忍耐が求められる。

また両国間には、安全保障分野での問題も浮上している。トランプ氏は韓国国防費を国内総生産(GDP)の5%水準まで引き上げるよう求めてくるのではないかとの見方が出ている。今年度の国防費はGDP比2・3%の約61兆ウォン(約6兆5000億円)で、倍増させよという話だ。
米国が進める「同盟の現代化」に伴い、在韓米軍の地位や役割にも微妙な変化が予想されている。従来の「北朝鮮抑止」から「中国抑止」にシフトした場合、李政権が前向きな戦時作戦統制権の韓国移譲に米側が同意する可能性もあり、韓国の対北抑止力低下は現実のものになる恐れがある。
報道によれば、第1期トランプ政権時に国家安全保障会議(NSC)の高官だったフレッド・フライツ氏は最近、韓国当局が「内乱の首謀者」として捜査を進める尹錫悦前大統領の処遇と関連し、魏聖洛・国家安保室長に「不公平な捜査・裁判はダメ」という趣旨で「不満」を伝えたという。
トランプ氏は、ブラジルのボルソナロ前大統領が左派のルラ現大統領に選挙で負けた後、起訴されたことを巡り「政治的迫害」と非難し、対ブラジル追加関税を40%に引き上げた原因の一つとなった。今後、「尹氏の処遇」がトランプ氏の対韓政策に影響を及ぼす可能性も排除できない。






