トップ国際朝鮮半島「平和」路線 揺れる対北抑止 韓国・李政権

「平和」路線 揺れる対北抑止 韓国・李政権

親北学者重用、ビラ散布に圧力 文政権時の軍事合意復元か

19日に開かれた国会の人事聴聞会で質問に答える李鍾●(=大の両脇に百)氏=韓国テレビ番組のキャプチャー

「韓米日連携」と齟齬

韓国の李在明政権が発足早々、対北朝鮮政策の中心に「平和」を据え、対北抑止の維持が不安視されている。親北派で有名な学者を情報機関のトップに指名し、南北軍事境界線付近のビラ散布に圧力を加えるなど、北朝鮮寄りの姿勢が目立つ。歴代の韓国革新政権が融和政策で北朝鮮の軍拡や独裁強化を許した前轍(ぜんてつ)を踏むのだろうか。(ソウル上田勇実)

李大統領が思い描く対北融和政策を事実上任された人物として関心を集めているのが、李大統領就任初日に情報機関である国家情報院(国情院)の院長に指名された李鍾●氏だ。

李鍾●氏は大手シンクタンクの世宗研究所に長く勤務。革新系の盧武鉉政権で統一相を務め、北朝鮮を「主敵」と表現するのを躊躇(ちゅうちょ)する筋金入りの親北派として知られる。そんな李鍾●氏を李大統領が外交・安保にも関連する主要ポストに指名したのには訳があった。

韓国メディアによると、2人の縁は李大統領が城南市(京畿道)の市長に当選した2010年ごろにさかのぼる。当時、世宗研究所も城南市内にあったことで2人は知り合い、同市や李大統領が知事を務めた京畿道を舞台に、主に北朝鮮関連の行事で親交を深めた。「互いに信頼し、深く理解する同志関係」となり、すでに「北朝鮮問題に対する考えを共有している」という。

先週、李鍾●氏の人事聴聞会が国会で行われ、保守系野党「国民の力」のある議員が、李鍾●氏が国情院長になったら「国情院が北朝鮮の対南連絡所になる恐れがある」と指摘するなど、警戒感をあらわにした。

南北が対峙(たいじ)する軍事境界線付近では、李政権発足を機に幾つかの異変も生じている。

李大統領は今月11日、韓国軍による対北拡声器放送を中断させた。また14日には、脱北者団体などが北朝鮮の軍人や住民に向けた情報提供を目的に宣伝ビラを大型風船にくくり付けて飛ばす対北ビラ散布について、「処罰を指示」(大統領室)し、与党「共に民主党」も「現行法上の違反素地が極めて高い」という見解を示した。これを受け統一省が対策に乗り出した。

拡声器放送中断の翌日、北朝鮮からのいわゆる「騒音放送」が聞こえなくなった。政府・与党はこれを「平和政策の成果」と評価するだろうが、北朝鮮国内に真実を伝え、民主化を促す主要なルーツを自ら放棄すれば、金正恩独裁政権の容認に等しいとの批判を受けかねない。

政府・与党は対北ビラ散布について、風船飛ばしに使うヘリウムガスがガス管理法違反に相当するのをはじめ複数の違法行為があると主張しているが、ビラ散布禁止は「憲法で保障された表現の自由と全面衝突する」(韓国紙・朝鮮日報)。また正恩氏の妹、与正氏の要求を受け、当時の文在寅政権が作った「対北ビラ禁止法」も憲法裁判所が違憲判断を下している。

対北ビラへの圧力とともに北朝鮮を利する恐れがあるのが、文氏と正恩氏による南北首脳会談で合意した軍事合意の復元だ。

これは李鍾●氏が人事聴聞会に提出した書面回答で言及したもので、仮に合意が復元された場合、履行の過程で韓国側の監視・偵察能力などが一方的に低下した文政権時の「対北武装解除」(保守派論客)が繰り返される恐れがある。

李政権が対北融和路線を敷くことは想定内のことだったが、問題は口先の「平和」に終わる公算が強いだけでなく、李大統領自ら何度も繰り返してきた「韓米日の安保協力」に早くも齟齬(そご)が生じていることだ。

韓国政府系シンクタンクの元トップは「李鍾●氏を国情院長に抜擢(ばってき)した時点で、北朝鮮や中国を警戒する米国や日本としては李政権との情報共有に二の足を踏んでしまう」と指摘した。

●(=大の両脇に百)

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