
尹氏夫妻も足枷に
来月3日投開票の韓国大統領選まで残り1週間となった。革新系最大野党・共に民主党の李在明候補の優勢が伝えられる中、保守系与党・国民の力の金文洙候補も最後の追い上げを見せている。与党が「反李」で連帯を呼び掛けた改革新党の李俊錫候補が保守系一本化に応じなかったことで、事実上3氏による争いとなる。(ソウル上田勇実)
世論調査機関リアルメーターが24日発表したところによると、次期大統領候補の支持率は李在明氏46・6%、金文洙氏37・6%、李俊錫氏10・4%だった。他機関が最近実施した調査でもほぼ同様の結果が出ており、李在明氏優勢に変わりはない。
今回の大統領選は尹錫悦・前大統領による昨年12月の「非常戒厳」宣言を発端とする尹氏弾劾に伴い実施される、いわば緊急選挙だ。もともと保守陣営と革新陣営が拮抗(きっこう)する韓国の国政選挙では、浮動層が勝敗のカギを握ることが多かったが、今回はその浮動層が戒厳令に対する嫌悪や困惑を根強く抱いており、これが野党候補有利の大きな背景となっている。
韓国の中道保守系日刊紙で記者を務める40代の男性は「いまだにあの戒厳のショックは大きく、あってはならないことだった」と振り返る。尹氏が戒厳令に踏み切った動機や野党の横暴について口にすることはなかった。劣勢に立たされた保守陣営には、浮動層を取り込んで形勢逆転をうかがう機会が少なくとも3回あったが、いずれも奏功しなかった。
尹氏弾劾の是非を巡り、保守陣営は「自由民主主義を守る戦い」をスローガンに掲げて尹氏擁護を訴えたが、左翼理念が強いと批判される憲法裁判所の壁に阻まれ、尹氏は弾劾された。その後、公職選挙法違反事件の被疑者である李在明氏の裁判で、大法院(最高裁)が「有罪」趣旨の差し戻しを言い渡したが、李氏に決定的ダメージは及ばなかった。そして20代、30代の男性を中心に若者に支持されてきた李俊錫氏との一本化が実現せず、票が分散する公算が強まっている。
もう一つ保守巻き返しの足かせになっているのが、尹氏とその夫人、金建希氏の言動や疑惑だ。尹氏は自分が大統領選での保守勝利の“お荷物”にならないために必要とみられた与党離党をスムーズに進めず、確証のない不正選挙疑惑を提起したドキュメンタリー映画を観覧して物議を醸した。金夫人も新たな収賄疑惑が浮上するなど、相変わらずのお騒がせぶりだ。
仮に李在明氏がこのまま当選した場合、すでに国会で野党が多数を占め、「司法にもコネクションがある」(与党関係者)ため、三権を牛耳る恐れが指摘されている。
韓国の保守系メディアまでもが相次いで尹氏擁護をやめる一方、尹氏擁護や李在明氏批判の先鋒(せんぽう)に立つ最大手紙の朝鮮日報は看板コラムで、李氏について1972年10月に当時の朴正熙大統領が特別宣言を発表して独裁色を強めた「10月維新」以来の「最も恐ろしい権力になる」と指摘した。
また同コラムは、米議会議事堂にあるフォード大統領の銅像の横に刻まれた文章に「神様感謝します。南北戦争の時にリンカーンを送って下さり、ウォーター・ゲート事件の混乱の最中にはフォードを送って下さいました。必要な時にそれに見合う人物を選んで国を再び一つにして下さいました」とあると紹介しながら、次のように嘆いている。
「私たちは朴槿恵弾劾の後に文在寅を送り、尹錫悦弾劾の後には李在明を送った神様に感謝の言葉を捧(ささ)げられるだろうか。ひょっとして『神様、あまりに酷(ひど)いじゃないですか』から始まる恨みの文章を思い浮かべないだろうか」
韓国社会の左傾化に流されるように、多くの疑惑と不正にまみれる李在明氏を有権者がそれでも選ぶのか。今回の大統領選で問われようとしている重大な問題であるはずだが、李氏の衰えぬ勢いを見る限り、浮動層の無関心ぶりが危ぶまれる。