
韓国大統領選まであと3週間となったが、世論調査などによると革新系最大野党・共に民主党の李在明候補が依然として優勢だ。保守派を中心に李氏を「危険人物」と評する識者は多く、李大統領誕生後を悲観し、嘆く声も聞かれる。(ソウル上田勇実)
「6月3日の大統領選で誰が当選有力なのかを話題にする人を見たことがない。なぜ関心がないのか。当選有力と当選確実の間を行き来する候補と彼がつくる国の姿を想像するのが嫌なのだろう」
保守系最大手紙の朝鮮日報は看板コラムで、李氏優勢の現状をこう嘆いた。コラムは「今回の選挙は普通ではない」とし、「5年、10年後に振り返り、いや1年、2年経験してみれば、あの時が最後のチャンスだったことを骨身に染みて感じるかもしれない選挙」とも指摘した。「李在明リスク」への尋常ならぬ危機感の表れと言える。
政府系シンクタンクの元トップは最近、九州の中小都市にある中古マンションの価格を調べていると友人に話した。「あんなに危険な人物が韓国の大統領になろうとすることを、国民は止めようとしないのか。移民を本気で考えるかもしれない」と心の内を明かしたという。
仮に李氏が大統領に当選したら、どんな世の中が到来するのか。一番多く指摘されるのは司法、立法、行政の三権をほぼ掌握してしまうことだ。
司法のうち特に裁判所は、先月の尹錫悦大統領に対する弾劾裁判をまとめた文炯培・所長権限代行をはじめ、左翼理念の法曹団体「ウリ法研究会」などの出身者が幅を利かせ、すでに各種容疑で被疑者となっている李氏を巡り「無罪」の筋書きで動いている節もある。
国会は、昨年4月の総選挙で単独過半数を上回って圧勝した共に民主党が複数の革新系少数野党を友軍につけ、現在は300議席のうち与党・国民の力(108議席)と改革新党(3議席)を除く189議席を牛耳っている。改憲に必要な3分の2以上、200議席まであとわずかだ。
そして大統領になれば閣僚をはじめ行政府の人事は思いのままに行うことができる。前政権時に任命され、まだ任期途中の高官はそれらしき理由をつくって弾劾してしまえばいい。
李氏の左翼史観に警鐘を鳴らす専門家もいる。長年、国家情報院で左翼思想などの危険性を訴えてきた李熙天・元韓国国家情報大学院教授は「李氏の歴史観や思想、発言と行動を総合すると、自由民主主義体制を守る政治家とは言えない」と断言する。
李在明氏の著書「李在明、大韓民国 革命せよ」(2017年)には、李氏が夢見る国家像が登場する。「(解放から)70年ぶりに大清算と大転換を完了し、新しい大韓民国、真の民主共和国を完成させよう」という記述がそれで、ここには「保守派が主導してきた現在の韓国をなくすべきという発想」(李教授)が隠されているという。
そもそも李氏の背後には暴力団の影がちらついてきたのも事実だ。李氏が政治活動を始めた京畿道城南市に拠点を置く組織暴力団「国際マフィア派」には、李氏の甥(おい)2人がメンバーとして活動していたことや、李氏が弁護士時代に同派が関わる事件を何度も弁護したことなどが明らかになっている。
李氏は最近、自身の反日・反米のイメージを払拭(ふっしょく)する言動を繰り返しているが、改革新党の大統領候補、李俊錫氏は「李在明氏は右折の方向指示器を出しながら左折の準備をする人。こういう人は運転(大統領)をしてはならない。後からついてくる国民を危険にさらし、周辺国を驚かせる」と語っている。
一方、与党は候補一本化で迷走。党候補に選出された金文洙・前雇用労働相が当初の予想を覆して韓悳洙・前首相との早期一本化を拒否したことで、李氏に対抗できると期待された韓氏がリタイアし、与党は戦略練り直しを迫られた。
与党は「最も競争力の低い金氏が李在明氏に挑戦せざるを得なくなり、李俊錫氏との一本化が最後のチャンス」(厳坰煐・時代精神研究所所長)という瀬戸際に立たされている。