
尹錫悦大統領罷免に伴う韓国次期大統領選が6月3日に実施されることが決まり、韓国は短期決戦の大統領選に突入した。現在は革新系最大野党・共に民主党の李在明・前代表が各種世論調査で保守系の与党・国民の力の候補らを大きくリードする展開。李氏は尹氏の母体となった与党や保守陣営を「内乱勢力」と批判し、中間層の取り込みを始めている。(ソウル上田勇実)
李氏は先週の党最高委員会議で「今は改憲より内乱終息が優先」と述べた。また出馬宣言(10日)の翌日に国会で行ったビジョン発表式の後も記者団に「今も内乱は続いている。内乱の主な執行者たちが依然として明らかにされていない。(中略)大統領代行(韓悳洙首相)は内乱代行と呼ばれているではないか」と語った。
昨年12月、尹氏が「非常戒厳」を宣言し、国会や中央選挙管理委員会に軍隊を投入させたことについて、李氏をはじめ野党は「内乱首謀」とさんざん批判していたが、その後の弾劾裁判では審理遅延を恐れ「内乱首謀容疑」を弾劾訴追の理由から突然外し、物議を醸した。今回、再び「内乱」を強調したのは、尹氏と与党、それを支持する保守陣営に「内乱」というレッテルを貼る、有権者向けの印象操作と言える。
しかも「終息」という言葉には、ただならぬ思惑が感じられる。同党は「内乱終息」と関連し、現在裁判が行われている尹氏の再逮捕や夫人、金建希氏を巡る各種疑惑の再捜査、与党議員や尹前政権関係者に対する「内乱共犯」容疑の捜査などを主張している。
この点について韓国大手紙は「李氏と共に民主党が打ち出した内乱終息は、政治報復と処罰狂風で国をひっくり返した文在寅政権による積弊清算の第二弾になるだろう」という与党関係者の話を伝えた。確かに朴槿恵大統領憎し、保守派憎しで突き進んだ、あの「積弊清算」を彷彿(ほうふつ)とさせている。
仮に李氏が大統領に当選した場合、まず予想されるのはこの「内乱終息」に向けた国内での保守たたきだが、その後に想定されるのは尹氏が改善させた日本をはじめ友好国との関係が文元政権時代のように再び悪化することだ。
一昨年夏、東京電力福島第1原子力発電所で処理水を海に放出した際、李氏は「日本は越えてはならない一線を越えた。核汚染水の放流は太平洋沿岸諸国に対する宣戦布告」と述べたことがある。国内向けの政治的発言とは言え、それこそ「一線を越えた」発言だ。
尹氏弾劾訴追以降は駐韓日本大使との面談で「日本を愛している」と述べるなど、突然、親日ポーズを取ったが、これも「強硬な反日」という従来のイメージを払拭(ふっしょく)させる演出とみられる。いずれ北朝鮮や中国に融和的な本音をあらわにし、反日的な政治路線に旋回するのではないかという見方も少なくない。
現在、与党の大統領候補に金文洙・前雇用労働相、韓東勲・前与党代表、洪準杓・大邱市長らが名乗りを上げているが、世論調査機関の韓国ギャラップが先週実施した調査によると、李氏との一騎打ちを仮定した支持率は、与党側が誰であっても李氏が50%以上、与党候補は20%台から30%台にとどまり、李氏有利は動かない。
ただ、同時期に実施された別の調査では、次期大統領にふさわしい人物を尋ねたところ、李氏がトップで32%、2位の金文洙氏(12%)を大きく上回っているが、「保留・分からない・無回答」が27%にも達した。
李氏は自分が権力を握るためには周囲の犠牲もいとわない強引なスタイルが批判の的となってきた。中間層にはアンチも多く、その壁が立ちはだかる可能性がある。