
北朝鮮メディアが今月8日に建造現場を公開した原子力潜水艦を巡り、核心技術である小型原子炉を含む関連技術がすでに北朝鮮に移転されている可能性があることが分かった。核弾頭を搭載する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの性能にはなお疑問も残るが、いずれ日本をはじめ西側諸国にとって重大な脅威になる恐れがある。(ソウル上田勇実)
在ソウルの北朝鮮消息筋によると、ロシアが保有する原潜用の小型原子炉などの移転は2023年7月、ロシアのショイグ国防相(当時)が訪朝した際、北朝鮮と合意した。同年9月のプーチン露大統領と金正恩総書記による極東ロシアでの首脳会談を経て、2カ月後の11月に実行されたという。
これまでに必要な技術の約7割がすでに北朝鮮側に移転された状態で、北朝鮮がウクライナ侵攻の長期化で戦力消耗に悩むロシアに1万人以上を派兵したことで、さらに追加の技術移転が進んだという。
これが事実とすれば、公開された建造中の原潜は張りぼてではなく、本物である可能性が高い。
朝鮮中央通信によると、原潜建造現場を「現地指導」した金総書記は、最近、韓国南東部の釜山に寄港した米国の原子力空母や原潜を念頭に、「敵対勢力の砲艦外交を制圧する核強国の抑止力としての使命を遂行すべき」だと述べた。
また「海上防衛力は制限された水域なしに、必要と見なす任意の水域で徹底して行使されるだろう」とし、米国近海まで行って原潜を運用させる可能性にも言及した。
金総書記は21年1月の朝鮮労働党第8回党大会で、「国防科学発展および武器体系開発5カ年計画」を発表し、その主要な目標の一つに原潜を挙げ、「新しい原潜設計研究が終わり、最終審査段階」にあるとして、原潜建造に着手したことを初めて公式に認めていた。
今回の建造公開には政治的な目的もありそうだ。韓国政府系シンクタンク、国家安保戦略研究院の金ジョンウォン氏はこのほどまとめたリポートで、三つの目的があるとの見方を示した。
それによると、第一に来年開催予定の第9回党大会に向け、軍事部門での成果を強調するためだ。「地方発展20×10」という金総書記肝煎りの地方経済発展政策の成果が芳しくない中、軍事面の成果として「原潜建造」をアピールし、国内の結束を図ろうという思惑があるという。
第二に、今月始まった定例の米韓合同軍事演習への対抗措置の一環だ。すでに金総書記の妹、金与正党副部長が米原潜の韓国寄港を非難して「威嚇的行動の検討」に言及し、外務省も「超強硬の対米対応原則」を強化するとしていた。
そして第三に、技術移転に応じたとみられるロシアとの蜜月ぶりを強調することで、対米交渉力を高めようという意図だ。ウクライナ侵攻が終わった後に予想される、トランプ米大統領との首脳会談を視野に入れて「原潜カード」をちらつかせ、牽制(けんせい)しようというものだ。
仮に原潜そのものが完成したとしても、核弾頭を搭載するSLBM自体の性能や原潜の運用・維持、米国などからの探知を回避する能力などに疑問を呈する声も上がっている。
ただ、日本をはじめ西側諸国にとって、北朝鮮の原潜保有が深刻な脅威になるのは間違いない。
韓国では、与党・国民の力の安哲秀議員が自身のフェイスブックで、「韓国型原潜の導入を米国と交渉すべきだ」と主張。日刊紙ソウル経済は社説で「有事の際に核武装できるよう核潜在力の確保を検討すべき。ウクライナは国際社会による安全保障の約束を信じてロシアに核兵器を返還した代価を払っている」と指摘した。