
駐韓中国大使が憂慮表明
「ソウルに中国人がなんでこんなに多いんだ!」
ある中年男性がこう叫んで地下鉄1号線に乗ってきた。先月中旬ごろ、弾劾集会が開かれる広場で反中感情が深刻だという話を聞いた時期であった。優先席へ向かう彼の声は怒りに満ちて激昂(げっこう)していた。中国人が多いという事実ではなく、それが問題だと非難する意図が明確に伝わってきた。
中国政府に対する反感と中国人に対する嫌悪は違う。今、韓国では前者を越えて後者に発展する様相が見えており憂慮される。集会の現場では「中国人ではないか」という追及が相次ぎ、出勤途中の地下鉄という日常の空間ですら、目の前で予告なくこうした敵意に直面するようになった。中国政府の行動に批判的な見方をするのとは次元が違うという点で、危険水位が感知される。
これは駐韓中国大使館の反応でも捉えられる。年初の戒厳・弾劾政局が本格化して、中国が韓国政治に介入するという主張が出始めると、中国大使館は韓国に滞在中の自国民に政治活動に参加しないようにという内容の重要な通知を出した。政治集会と混雑した場所を避け、公開で政治的発言をせず、自らの安全を図るようにとの特別勧告であった。
だが、約1カ月後、戴兵駐韓中国大使は金碩基国会外交統一委員長、韓国の取材陣と会った席で、一部の保守派が反中陰謀説を煽(あお)っている状況に対し公に憂慮を表明した。外交問題になる可能性があるとも述べた。
これまで「中国の不正選挙介入説」が政界から飛び出し、“キャプテンアメリカ”のスーツを着た尹錫悦大統領の支持者が駐韓中国大使館と警察署への乱入を図り、逮捕・拘束される事件まで起こった。リーダーシップ不在状態の韓国で、水面下の外交に総力を挙げている外交官にとって特に力が抜けることだ。
趙兌烈外交部長官(外相)は韓米同盟と韓中パートナーシップがゼロサム関係でなく、ウィンウィン(相生)できる時代だと強調してきた。趙長官が「米国との強力な同盟をアップグレードしながらも、中国と関係を改善することができる」というメッセージを両国の当局者たちに会うたびに発信している理由だ。中国と経済的に絡み合っていない国がない現在、国益を考えるとこのような答えが出てくる。
しかも米国の孤立主義が強まる時ではないか。あえて「中国が嫌いだ」という感情をむやみに表出して韓国に良いことはない。既に民間では中国人留学生などが“嫌韓”情緒を抱いて本国に帰るという話が聞こえてくる。海外人材の誘致、韓国の外交舞台を有利にするため、親韓派を養成するにも足りない時間を浪費しているのだ。
(チョン・ジヘ外交安保部記者、3月4日付)