尹錫悦大統領による非常戒厳宣言とその後の弾劾裁判などで大揺れの韓国。尹氏に対する世論は「擁護」と「非難」に割れているが、次世代を担う20代、30代の若者たちはどう感じているのだろうか。保守系の学生組織「新全国大学生代表者協議会(新全大協)」で共同議長を務めた金泰一氏(31)に聞いた。(聞き手=ソウル上田勇実)

――まず尹大統領による戒厳令を韓国の若者はどう受け止めたのか。
間違いだと思った人が大半で、「21世紀の韓国でこんなことが起きるなんて」というのが正直な気持ちだったと思う。多くの国民にとって戒厳令は過去の軍事政権で兵士を動員した市民統制を連想させるものだった。だが、若い世代は戒厳令を直接体験していないため、昔の出来事であり、一つの単語にすぎなかった。軍人たちは国会や選挙管理委員会に突入したが、銃弾1発撃たないまま、誰も連行されなかった。時間の経過とともに「なぜ大統領はあんなことをしたのか」と考え始めた。

――戒厳令の動機について若者はどう考えているか。
国会多数派の最大野党・共に民主党が弾劾乱発や予算削減などで国政を麻痺(まひ)させたのが事の発端だったと訴えた尹氏の心境は理解できると思う人が増えている。ただ、戒厳令ではなく、対国民談話を繰り返し発表してもっと国民との意思疎通を図るべきだった、他の方法があったはずだと考えている。
――尹氏に対する弾劾訴追をどう見ているか。
私個人は弾劾に反対だ。法的議論は別にし、今の韓国憲法は国会の独裁・独走を想定していなかった。国会は民主的かつ合理的で、国民の意思を反映するところだと信じていた。ところが、今の国会は党内の反対意見さえ消し去られ、共に民主党の李在明代表に近い人だけが出世する構造になってしまった。こうした状態でどのように野党の横暴を牽制(けんせい)し、与野党を仲裁し、互いに交渉するかという例外的状況を想定してこなかった。これは弾劾によって解消できるものではなく、改憲でしか解決できないようだ。

――20代、30代の男性は弾劾反対が多い。
戒厳令に反対したので、当然最初は弾劾にも賛成だったが、原因を提供した野党による国政麻痺に問題があったことが見えてきた。戒厳令は褒められたものではないが、だからと言って弾劾まで進めるのは問題があると思うようになった。弾劾・罷免されたら、60日以内に実施される次期大統領選で李在明氏が当選する可能性が高いという見方が多く、危機感を覚えたためでもある。
――逆に20代、30代の女性は弾劾賛成派が多いようだ。
伝統的に若い女性たちは反保守感情が強い。この世代の両親たちは40代から60代が多く、革新系の政党支持者が圧倒的に多いため、成長過程で家庭内で保守に対する肯定的評価を耳にする機会がほとんどなかったはずだ。それに加え、学校教育やマスコミ、映画やドラマなど周囲の環境も反保守だった。
教育課程では、軍事独裁や日帝(日本による統治)に対し抗拒の旗をはためかすことが善だと植え付けられ、その結果、巨大な権威への抵抗こそ正義だと考えるようになる。

――それは男性の場合も同じなのではないか。
男性はそういう環境を一度抜け出すチャンスがある。兵役だ。そこで受ける教育は大韓民国という国の成り立ち、体制についてだ。国家観を学び、これまで自分が注入されてきた内容とは異なると考えるきっかけを得る。
――弾劾認容なら60日以内に大統領選だ。20代、30代は何を基準に判断するだろうか。
キーワードは「アンチ李在明」だ。男性も女性も。与党候補が誰なのかは次の問題。女性でも以前より李氏に対する反感が強くなっている。
もう一つのポイントは、自分が受けている不当さ、不義に共感し、それを解決してくれる意志があるか否かを見極めようとするだろう。女性の場合、専門職や高度な技術職などを除く8割以上が男性より給与が低く、経済的困窮を脱した明るい未来像を描きにくくなっている。基本所得を掲げ、1カ月25万ウォンずつの給付金を支給するような政策を訴える李氏に、女性たちが好感を抱いても不思議ではない。

――ただ、一方で男女とも李氏への反感が少なくないようだ。
中国との貿易で韓国経済が潤った時代を体験した世代とは異なり、若者はメード・イン・チャイナを身に着けているとからかわれたり、中国製に偽造品のイメージを抱く世代。コロナ・パンデミックの際に自由民主主義国ではあり得ない非論理的、全体主義的な政策や言動も見せられ、反中感情が広がった。
若者が李氏や野党に反感を抱く理由には、彼らが親中国路線であることもある。以前、反日感情が影響した時とは大きく変わった。