トップ国際朝鮮半島次期大統領選へ駆け引き 壁新聞に「李在明はもっとダメ」【連載】尹氏「弾劾」の深層 (下)

次期大統領選へ駆け引き 壁新聞に「李在明はもっとダメ」【連載】尹氏「弾劾」の深層 (下)

高麗大学(ソウル市)キャンパス内に貼られた壁 新聞。尹氏弾劾後、李在明氏が次期大統領になる ことに反対する言葉などが並んでいる=11日

「尹錫悦が弾劾されたら誰が大統領になる可能性が高いだろうか?」

尹大統領に対する2回目の国会弾劾訴追案の採決を目前に控えていた先週、韓国主要大学である高麗大学の構内に、こんな文句の「大字報」(壁新聞)が貼られてあった。そのすぐ横には次のような言葉が続く。

「尹錫悦をこのまま大統領にしておけない→尹錫悦を今すぐ弾劾させるべきだ→だからと言って李在明はもっとダメ→では尹錫悦を大統領のまま放っておく?」

これを書いたのは「全国大学生中立連合」。実態不明の団体だが、わざわざ「中立」と名乗り、大学生の平均的な考え方をアピールしようとしたのかもしれない。

数日後、これらの言葉は差し迫る現実問題となった。弾劾訴追案の可決で尹氏が職務停止となったためだ。

仮に憲法裁判所が尹氏罷免の決定を下せば、その日から60日以内に新しい大統領を選ばなければならない。2016年の朴槿恵大統領弾劾のケースを当てはめるなら罷免は来年3月、大統領選は5月ということになる。そして次期大統領に最も近い人物こそ各種世論調査で圧倒的トップを走る最大野党・共に民主党の李在明代表だ。

6日、ソウルで記者会見す る韓国野党「共に民主党」の 李在明代表(AFP時事)

ただ、李氏には悪いイメージもつきまとう。市長・知事時代にあった数多くの不正疑惑で起訴され、周囲の関係者数人が自殺に追い込まれた。先月は公職選挙法違反事件の一審判決で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。大統領選の直前に二審有罪となれば、有権者の心象はさらに悪くなる。

今回、野党が尹氏の弾劾訴追を急いだのは、李氏が自身の大統領選出馬への悪影響を最小限にとどめたい思惑からだとする見方が多い。尹氏の「内乱罪」や「違憲行為」が許せなかったのではなく、保身のためだ。だからこそ「李在明はもっとダメ」なのだろう。

一方、与党・国民の力は劣勢に立たされている。有力な次期大統領候補と目された韓東勲(ハン・ドンフン)代表は、訴追案採決を巡る迷走と否決できなかった責任などで辞任し、短期間での再起は難しいとみられる。

「李在明氏と唯一いい勝負ができる」(厳垌煐(オム・ギョンヨン)・時代精神研究所所長)人物として急浮上しているのが、20代、30代の男性から高く評価される若手の李俊錫(イ・ジュンソク)・改革新党議員だ。李氏は与党候補として名前が挙がる呉世勲(オ・セフン)ソウル市長や洪準杓(ホン・ジュンピョ)・大邱市長とも近いとされ、「李氏で候補一本化すれば今の与党劣勢を挽回できる」(厳氏)という。

もちろん盧武鉉氏の時のように憲法裁が罷免訴追を却下する可能性もあり、そうなれば尹氏は大統領の職務に復帰する。

しかし、憲法裁の独立性が保たれると断言する人は少ない。朴氏弾劾の時は憲法裁の建物を左派のデモ参加者が取り囲んで騒然となり、判決に心理的圧力を与えたとみられる。判事の中には朴氏が直接任命した人もいたが、結局は全員が罷免を支持。判事の一人をよく知るある関係者は「憲法裁が世論と左派の圧倒的な弾劾要求に押され、政治裁判所になり下がった瞬間だった」と振り返る。

思えば尹氏は検事時代、朴氏の国政介入事件の捜査を指揮し、罷免につながる流れを作った張本人と言っても過言ではない。それが今度は自分が弾劾される立場に立たされた。皮肉と言うほかない。

今回の戒厳騒動は権力が極端に一極集中する大統領制の弊害がもたらしたものという指摘も出ており、憲法改正を通じた議員内閣制への移行の必要性を唱える識者も多い。

韓国大統領の末路は悲惨――。またしても不名誉なレッテルが貼られることになるのか。今後数カ月、事態の行方に国際社会の関心が集まりそうだ。(ソウル上田勇実、写真も)

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