【ポイント解説】「6時間」で終わった変事
1979年の粛軍クーデターを題材にした映画「ソウルの春」は全斗煥保安司令官が軍と国家を掌握していく過程を描いていた。今回、尹錫悦大統領による「非常戒厳」が発令されると、SNSにはこれをもじった「ソウルの冬」のコラージュが上がっていた。
全斗煥氏は後に大統領となるが、尹氏は既に大統領の座にある。だが国会では多数野党から閣僚や検察の弾劾、夫人の疑惑などあの手この手で追及され、にっちもさっちも行かなくなっていた。
一方で野党の李在明代表は複数の裁判で有罪判決を受け、これも絶体絶命の崖っぷちに立たされていた。このままでは逮捕収監され、次の大統領選に出馬することもできなくなる。そのための弾劾乱発だったわけだが、先に動いたのは尹大統領の方だった。野党の思う壺(つぼ)に嵌(はま)った。
動いたはいいが、簡単にひっくり返された。国会を封鎖した上で戒厳を発令しなければならなかったのに、議員が集まり与党も含め“全会一致で”解除を決議したのだ。詰めが甘かったとしか言いようがない。尹大統領も早朝になって解除を宣言せざるを得なかった。
変事はたった「6時間」しか持たなかった。これから尹氏を待つのは茨(いばら)の道、針の筵(むしろ)だ。戒厳発令を厳しく追及され、大統領弾劾、退陣要求になっていくだろう。光化門はまたデモ隊で埋め尽くされるのだろうか。
心配なのは「尹親日政権」の次に来るものだ。日米韓協力体制がまたひっくり返され、「NOジャパン」が叫ばれるのだろうか。「トランプ」「石破」と続き韓国までが。この状況で最も利益を受けるのは誰か…、考えたくもない。(岩崎 哲)