トップ国際朝鮮半島孤立無援の尹氏、悪手で墓穴―韓国の「非常戒厳」騒動

孤立無援の尹氏、悪手で墓穴―韓国の「非常戒厳」騒動

「親北派」横暴防げず弾劾自招か

韓国の尹錫悦大統領が野党の国政妨害をなくすとして突如、「非常戒厳」を宣布し、野党などの猛反発でわずか6時間後に解除に追い込まれるという前代未聞の騒動が起きた。今回の事態が尹氏の国政運営に深刻な打撃を与えるのは必至で、野党は尹氏弾劾の準備を本格化させるなど、尹氏の思惑とは真逆の展開になりつつある。(編集委員・上田勇実)
4日深夜、韓国・ソウルの国会前に集まり尹錫悦大統領の戒厳令発令に抗議する群衆(UPI)
4日深夜、韓国・ソウルの国会前に集まり尹錫悦大統領の戒厳令発令に抗議する群衆(UPI)

「破廉恥な従北(親北)反国家勢力を一挙に剔抉し、自由憲政秩序を守るため非常戒厳を宣布する」

3日夜、尹氏はテレビの生放送を通じて「非常戒厳」宣布の理由をこう述べた。

国会多数の左派系野党・共に民主党を中心とする野党陣営が監査院長や検察幹部らへの弾劾を推進し、来年度予算の成立に待ったを掛けるなど数の力を笠に着た横暴が際立っていた。

しかも問題の根っこは野党議員の多くが盲目的な親北朝鮮派で、自由民主主義的価値観に立脚したとは思えない主義主張も多く、最終的には「半永久的な左派執権」を夢見ている節があることだった。「破廉恥な従北反国家勢力」という言葉は韓国左派の深刻な実態を言い当てたものだった。

だが、この言葉にどれだけ多くの国民が共感しただろうか。むしろ「戒厳は時代錯誤も甚だしい」「なぜ戒厳なのか皆目見当がつかない」という声が聞こえてくる。近年の韓国左傾化に警鐘を鳴らす識者たちの懸念の一つ、「左派の危うさに鈍感な社会」であることがまたしても立証された形だ。

尹氏の支持率は再び10%台に落ち、危険水域だ。野党だけでなく与党・国民の力の一部、特に検事時代に先輩後輩の関係だったはずの韓東勲同党代表でさえ尹氏の夫人、金建希氏の各種疑惑などを巡りあからさまに尹氏と対立している。尹氏自身が独断的な人事や政策で支持層離れを招いた側面もあるが、最近の尹氏は孤立無援状態に近い。

ただでさえ厳しい状況下にある中、戒厳というカードは左派の横暴を止めるどころか特大級の悪手となってしまった。

戒厳となれば戦時など国家非常事態に秩序維持のため軍の兵力が投入されるが、「そこまで緊迫した状況だと思う国民はほとんどいなかった」(韓国メディア)。

政治活動禁止へ一時、武装軍人が国会を統制するため立ち入り、窓ガラスを割ったり、議員らと小競り合いになった。いまだに軍事独裁政権時代の弊害に恨みを抱く左派にとっては刺激的すぎる光景だった。

こうなれば野党の思う壺だ。強権的な大統領の命令で軍が動員されれば国民感情を逆なでする。尹氏はそれを予想できなかったのか。

しかも国会多数の野党の壁にぶつかれば、あえなく解除せざるを得ないのになぜ強行したのか。国務会議(閣議)で韓悳洙首相はじめ全閣僚が反対したと言われるのに、なぜそれを振り切ったのか。

一晩の間に起きた騒動は、特に共に民主党の李在明代表を勢いづかせている。目標にしてきた尹氏弾劾に向け、世論形成がしやすくなったからだ。

国会で弾劾訴追案が可決するには全議席の3分の2以上の賛成が必要だが、現在、同党をはじめ反尹氏の野党は全部で192議席。与党から8人の造反が出れば可決してしまう。野党6党は4日、今回の非常戒厳宣布は違憲だとして尹氏の弾劾訴追案を国会に提出したが、与党議員も今回の戒厳宣布には難色を示しただけに、訴追案が否決される保証はない。

8年前に朴槿恵大統領(当時)が弾劾された時、左派陣営が青瓦台(当時の大統領府)を囲むように行進する際にその経路として描かれた「鶴翼の陣」が、今年再び左翼陣営の尹氏包囲網の戦術として登場した。
韓国では「尹大統領が弾劾か下野に追い込まれるのは時間の問題」(厳坰煐[オム・ギョンヨン]・時代精神研究所所長)という見方が出始めている。

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