韓国の尹錫悦大統領が10日、就任から2年半となり任期を折り返した。外交・安全保障では手腕を発揮する一方、夫人の疑惑が長引き、与党代表との軋轢(あつれき)も表面化。さらに景気低迷で直近の世論調査では支持率が20%にも届かないなど、国民から厳しい目を向けられている。野党や左派系メディアは弾劾を目標に掲げ攻勢を続ける。(ソウル上田勇実)
「とにかく自営業の仲間内で尹大統領の評判は悪い。景気が上向かず、商売上がったりだ」
ソウル市内で小さな被服工場を営む朴鍾一さん(62)はこう述べ、尹氏への不満を吐露した。もともと保守派だった朴さんだが、尹氏が経済活性化に有効な政策を打ち出せない上、独善的なスタイルで人事や政策を決めたことに失望した。「前回は尹大統領に投票したが、生活が懸かっているので次の大統領選では野党候補に投票するかもしれない」(朴さん)というのが、今の正直な気持ちだという。
尹氏は当選以降、支持率低迷に苦しみ続けた。もともと低かった支持率がさらに低下していったのは、朴さんのような支持層離脱が原因といわれる。韓国ギャラップが先週実施した世論調査で尹氏の支持率はついに過去最低の17%まで落ち込んだ。
特にここ数カ月、尹氏の国政運営の足かせになっているのは夫人・金建希氏を巡る各種疑惑だ。金氏が以前、与党の大統領候補選びに介入したのではないかとする疑惑などが連日報じられた。それに関わった別の人物が尹氏夫妻を巡る真偽不明の暴露発言を重ね、事態は収拾できないほど悪化した。
尹氏は任期折り返しを前に国民向け談話を発表し、「私の周辺(夫人)のことで国民にご心配をおかけした。全ては私の不徳の致すところ」と述べ、大統領室は次の尹氏外遊に金氏が同行しない方針を明らかにした。これまで控えめな言動が多かった韓国の大統領夫人たちとは異なり、金氏が自身の判断でさまざまな対外活動をし、物議を醸してきた問題を意識したとみられている。
一方、尹氏は外交や安全保障政策では一貫した姿勢を示し、日韓関係改善や北朝鮮の脅威に対する日米韓3カ国の連携強化の立役者となった。
尹政権は、文在寅前政権時代に日韓関係最大の懸案となった元徴用工訴訟問題で、韓国大法院判決に基づく日本企業の賠償金支払いに代わり、韓国政府機関の第三者弁済という解決策を打ち出した。その後、弁済受け取りをかたくなに拒否してきた原告のうち2人が急きょ受け取りを表明するなど、問題解決に向け事態が大きく前進。「これ以上、両国間の火種として再浮上することはない」(李元徳・国民大学教授)とみられている。
日米韓の連携では、特に国内世論に強い抵抗感が残る日本との軍事協力を常態化させつつある。今月7日も中谷元・防衛相が海上自衛隊横須賀基地に寄港した韓国軍艦に、防衛担当閣僚として初めて乗艦し乗組員と交流したほか、その前日から海自練習艦が韓国艦艇と紀伊半島沖で共同訓練を実施した。
北朝鮮や中国の脅威を念頭にした、一連の日本重視の姿勢は尹氏自身の考えによるものでもあろうが、国家安保室で事実上の舵(かじ)取りをしていると言われる金泰孝・第1次長の保守的理念が尹氏に大きな影響を及ぼしているとの見方が多い。
最大野党・共に民主党をはじめとする野党陣営は、尹氏弾劾に向け攻勢を続けている。同党の李在明代表は今月、自身の疑惑を巡る2件の裁判で一審判決を控えているが、尹氏退陣を要求するデモ集会の先頭に立っている。
与党・国民の力の韓東勲代表は夫人の問題で尹氏に対応を迫るなど、かつて検事時代に先輩だった尹氏をやり込める手法を取り、2人の間には不協和音が生じている。
ロシア派兵や新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射など脅威の度合いを強める北朝鮮と対峙(たいじ)し、米大統領選では金正恩総書記との対話に意欲を示すトランプ次期米大統領が再選を果たすなど、朝鮮半島情勢は予断を許さない。足元では国内の課題が山積する。尹氏は任期後半も厳しい国政運営を強いられそうだ。