石破新総裁に韓国ひと安心 歴史問題で柔軟姿勢に期待

尹錫悦韓国大統領(AFP時事)

先週の自民党総裁選で勝利した石破茂元幹事長が1日、新しい内閣総理大臣に指名されることを受け、韓国では近年「右傾化」した自民党の中で非主流だった石破氏への期待がにわかに膨らんでいる。総裁選で決選投票に残った高市早苗経済安全保障担当相を「アベ(安倍晋三元首相)の事実上の後継者」として警戒する声もあっただけに、安堵(あんど)感も広がっているようだ。(ソウル上田勇実)

「もし高市氏が当選していたらアベ・シーズン2となって歴史認識問題で韓国に断固たる姿勢を貫く公算が大きかった。尹錫悦政権はそれでも日本への低姿勢外交を続けるのかという野党のさらなる批判にさらされただろう」

こう述べたのは歴史関連の政府系機関・東北アジア歴史財団のある幹部だ。1回目投票で「1位高市氏、2位石破氏」だったのが、決選投票で石破氏が高市氏を逆転するなど、両氏が大接戦を繰り広げたことを受けての言及である。

文在寅前政権が事実上放置したために日韓関係最大の懸案となった元徴用工問題で、尹政権は第三者弁済を中心とした政府主導の解決案を示した。韓国国民にとって“安保アレルギー”となっている日本との防衛協力にも前向きな姿勢を取り、最近では「佐渡島の金山」のユネスコ世界文化遺産登録にも一部に強い反対がある中で賛成した。

こうした尹氏の対日政策を革新系の野党やメディアは格好の政権批判の材料とみなし、こぞって「親日」と批判していた。対韓強硬派と映った安倍氏の路線を引き継ぐ高市氏が首相になった場合、尹氏は国内でさらに追い詰められる恐れがあったわけだ。

石破茂次期総理

石破氏に対する韓国側の評価は総じて「柔軟なハト派」であり、期待感もにじませている。評価の根拠として韓国メディアが挙げるのは、歴史認識問題に関する過去の発言だ。

「石破総裁は2017年の東亜日報とのインタビューで日本軍慰安婦問題について、『韓国が納得するまで謝罪すべきだ』と述べるほど、保守的な自民党の中にあって差別化された歴史認識を持つ人物」(保守系日刊紙・東亜日報)

「19年に(韓国側が)韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄しようとした際、石破は『わが国が敗戦後、戦争責任に正面から向き合ってこなかったために生じた問題』と発言した。そういう点から石破総理就任は韓日関係に肯定的影響をもたらすという期待が少しずつ出ている」(革新系日刊紙・京郷新聞)

石破新政権は党や官僚の人事で「旧安倍派」外しを露骨に打ち出したとの見方もあり、今月27日に実施される見通しの総選挙で勝利した場合、党内保守派の反対を押し切って所信を貫く可能性も出てくる。韓国には願ってもないシナリオだ。

石破氏が靖国神社参拝に慎重姿勢であることにも韓国側は好感を持っているが、石破氏は総裁選直前に出席した民放の討論番組で、「天皇陛下の靖国参拝実現を目指すべき」と発言した。韓国人が被害者目線のみでアプローチしてくるこの問題を巡り、石破氏が他の自民党議員と同様に「日本人の心の問題」として向き合おうとしていることはあまり意識されていないようだ。

一方、韓国には石破氏への警戒感もある。例えば、防衛相を歴任し、安全保障政策に精通しているだけに、中露朝の脅威に対抗するため韓国との防衛協力をさらに推し進め、それが「日本の軍事大国化」につながるのではないかという危惧だ。

石破氏が主張する自衛隊の憲法明記や「アジア版NATO」構想なども韓国には「日本の軍拡」に道を開く布石と映りやすい側面がある。

いずれも韓国側の過度な警戒と言え、これが一方で安保分野の日韓協力を遅らせる原因になってきたという冷静な判断を下せている人はまだ少数だ。

とはいえ石破新政権でも前政権の路線が踏襲され、日韓関係改善の流れはしばらく続くとの見方が優勢だ。来年は国交正常化60年という大きな節目が追い風になりそうだ。

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