在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の方針に沿って長年、北朝鮮の理念や政策を支持してきた朝鮮総連関係者が先月訪韓し、北朝鮮の金正恩総書記が昨年末から今年初めにかけ、韓国について「統一の対象とみなさない」「敵対的な二国間関係」と発言したことに失望して苦悩している心境を吐露したことがこのほど分かった。北朝鮮主導の統一を夢見てきた在日朝鮮人社会の動揺ぶりを浮き彫りにしたものと言える。(ソウル上田勇実)
訪韓時に心境吐露
訪韓したのはルーツが韓国中部の忠清道だという60~70代の朝鮮総連関係者2人。先月、大統領直属の統一諮問機関「民主平和統一諮問会議」の新たな事務処長(次官級)に任命された北朝鮮外交官出身の太永浩氏を訪ね、約2時間にわたる面談で北の統一放棄宣言への思いを語り、太氏に意見を求めてきたという。
太氏は本紙の取材に対し、同関係者は北朝鮮主導による朝鮮半島統一がいつか実現すると信じて北朝鮮を「祖国」と呼んできたが、統一放棄宣言に大きく失望し、「統一の大業」を遺訓として正当性を保っていた3代世襲の必要性にも疑問を抱き始めたと明らかにした。
関係者は、統一放棄の理由について朝鮮総連中央本部に問い合わせたところ、「平壌の方針をそのまま受け入れる」よう促されただけで、詳細な説明はなかったという。太氏は関係者について「朝鮮総連から完全に離れたという印象を受けた」と語った。
もともと関係者は、太氏が北朝鮮の小中学校で習った詩や教科書『革命歴史』をいまだに諳(そら)んじるほどの熱烈な北朝鮮信奉者。金正日総書記が小泉純一郎首相との首脳会談(2002年)で、日本人拉致を認めて謝罪したことに衝撃を受けた友人の在日朝鮮人たちが、朝鮮総連との関係を断った時にも北朝鮮支持を続けた。だが、今回の統一放棄宣言による衝撃には「耐えられない様子」(太氏)だったという。
太氏は北の統一放棄について関係者に対し、正恩氏が北朝鮮で広がる韓流などの韓国情報とそれに伴う韓国への憧れを遮断するため、国内向けに統一への期待を失わせる必要があったと説明。また、韓国に対する核攻撃を道義的にも法的にも可能にさせるために、二国間関係論を主張し始めた可能性があると指摘したという。
2人の関係者は太氏の説明に理解を示した様子で、同じように動揺している同世代の朝鮮総連関係者とも認識を共有する必要があると述べたという。