韓東勲氏がリーダーシップを
日韓関係が劇的に改善に向かったのは韓国で保守政権が誕生したからだ。尹錫悦大統領が取った関係改善策によって、表向きの「反日」の蓋(ふた)が取れると、堰(せき)を切ったように訪日韓国人が増え、ネットには日本紹介の動画が溢(あふ)れ、日本式「居酒屋」では日本ビールが大好評を博している。変われば変わったものである。
この歓迎すべき関係改善の方向と韓国側の“手放し”の好日ブームに対して、日本側も同じような熱量で応じているかというと、そうではない。相変わらず懐疑的な視線が残っている。「政権が代われば、また反日になるだろう」との警戒感を解くことができないからだ。
根拠がある。韓国の与党「国民の力」は4月の総選挙で惨敗し、前の左派政権を支えた野党「共に民主党」が多数議席を取った。これは与党が受けた審判だが、尹政権の「中間評価」であり、2027年の大統領選に向けて野党を勢いづかせ、与党が政権維持できるかどうかが危うくなっているのだ。
新東亜(8月号)で時事評論家のユ・チャンソン氏が「保守再執権のための三つの要件」を書いている。7月に行われた与党の党大会では「国民の願いに応える執権党に生まれ変わるためのビジョン競争は見られず、『韓東勲(ハンドンフン)対反韓東勲』『親尹対非尹』の声だけが満載で、総選挙の大敗を全て忘れたような姿だった」とユ氏は嘆く。
「韓東勲」氏は尹大統領と同じ検事出身で法務長官(法相)を務めていたが、選挙前になって抜擢(ばってき)され、非常対策委員長として総選挙を率いた。党内では韓氏への評価が割れている。尹大統領夫人・金建希女史の「ブランドバッグ疑惑」への対応や、総選挙結果の責任も問われたが、7月の党大会で代表に選出された。
「親尹」「非尹」とは尹大統領派とその反対派閥ということだ。大統領への評価を巡っても党内は分裂しているわけで、このように党内闘争に明け暮れていて次の大統領選に勝てるわけがないというのがユ氏の危機感だ。
拡張性持つ実用保守に脱皮せよ
ユ氏は、尹錫悦氏がそもそも22年の大統領選で勝てたのは、野党民主党と李在明候補が「あまりにも多くの議論」(李氏の不動産疑惑等)を抱えて支持層からも拒否が多かったことと、左派文在寅政権に懲りた中道層が政権交代を望んだからであって、国民の力は「反射利益のお陰で勝った」にすぎないと分析している。だから政権を手にしている間に支持を確かなものにし、支持層を保守から中道へと広げていかなければならないのに、この体たらくでは「政権維持はほど遠い」と厳しい。
党内がまとまらないのはひとえに尹大統領の「リーダーシップ」に問題があるからだとユ氏はみている。「旧時代的」であり「理念闘争」に拘泥している。「議論を遠ざけ、自分の判断だけ絶対視して政治時計を過去に戻してしまった」とまで言う。尹氏は「時代は多元化し複雑になった環境」を理解していないのだ。その上でユ氏は「韓国の保守政治が生きる道は理念保守ではなく、社会変化を余儀なくされる実用保守にいくことにある」とし、「拡張性を持つ新しい保守の道」を目指すべきだと提言する。これが一つの要件だ。
だが、尹錫悦大統領はそれができない。「新しい人物とリーダーシップが中心に立つことだけが、保守が27年に再執権を実現できる近道で唯一の道であることを自覚すべきだ」とユ氏は言う。「それは韓東勲」というわけで、韓氏は党大会でも独走で代表に選出され、さらに「中道層まで基盤を広げる可能性も有している」と高く評価する。
第二に、民主党側では現在「李在明一極」体制になっており、党内競争が封殺され、それがダイナミズムを圧迫している。この硬直状態が逆に与党を有利にしていく要件ともなる。
第三に、保守政界には韓氏の他に呉世勲(オセフン)ソウル市長が「大権挑戦態勢に入ると予想されて」おり、「保守・進歩を分ける理念闘争によらず、市民全体を対象にした実用主義的政策を出している」ことに「拡張性」を期待できるとしている。
まとめると、ユ氏は尹大統領のリーダーシップでは政権維持は難しく、新しい中道層にも拡張性のある候補が複数登場してダイナミックな党内候補争いを展開すれば、勝機はあるということだが、大統領選まであと2年半ある。
(岩崎 哲)