韓国ではここ数年、大統領夫人を巡る疑惑が相次ぎ浮上し、国政運営の足枷(あしかせ)になっている。尹錫悦大統領の夫人、金建希氏(51)は約2年前に高級バッグを受け取った収賄疑惑がいまだに尾を引いている。一方、文在寅前大統領の夫人、金正淑氏(69)も夫の在任中、単独でインドを訪問した際の渡航費が法外な金額だったことが後に判明し、物議を醸した。与野党対立の火種になっている。(ソウル上田勇実)
金建希氏を巡る最も大きな疑惑は、一昨年9月に在米韓国人で同郷の知人だった左派系牧師から約300万ウォン(約33万円)相当のクリスチャンディオールのバッグを受け取り、これに対する牧師への見返りがあったか否かという問題。金氏は同年5月に尹氏が大統領に当選した直後もこの牧師から約180万ウォン(約20万円)するシャネルの香水と化粧品のセットを受け取ったという。
高級バッグ受け取りの瞬間は隠し撮りされ、昨年11月にユーチューブで公開され騒動に。その後、牧師が左派系ネットメディアと結託して金氏を陥れるための罠(わな)だった可能性が指摘されたが、高級バッグを受け取ったこと自体が問題視されている。
それは不正請託防止法(別名、金英蘭法)に違反した場合、尹氏が処罰される恐れがあるためだ。同法は「公務員(尹氏)の配偶者(金氏)は公務員の職務と関連し1回当たり100万ウォン(約11万円)または毎会計年度当たり300万ウォンを超える金品を受け取ったり要求または約束してはならない」としている。
金氏を巡っては約5年前にドイツ車輸入販売業者の不正な株価操作に関わったとする疑惑なども浮上した。
尹氏弾劾を目標に掲げる野党は、今年4月の総選挙で高級バッグ受け取りの問題を争点化し、選挙後も議会多数派である自分たちが推薦できる特別検察官による捜査を進めようと躍起になっている。
尹氏は5月の記者会見でこの問題を巡り初めて謝罪し、金氏も検察の事情聴取で謝罪したというが、捜査を遅々として進めなかったことが問題を大きくした。金氏に対する世論は厳しく、「派手な外見はファーストレディーに相応(ふさわ)しくない」(70代男性)、「贈り物を受け取るのは許せない」(60代女性)という声も聞かれる。その不人気が、ただでさえ支持率低迷にあえぐ尹氏を直撃しているのは間違いない。
一方、「金建希氏よりはるかに悪質で犯罪容疑が濃い大統領夫人」(韓国大手紙)と言われるのが文前大統領の夫人、金正淑氏だ。
韓国メディアによると、金氏には青瓦台(当時、大統領府)の特別活動費から服やアクセサリーを購入するなど国家予算を私的用途に流用した疑いが数多くあり、海外旅行行きたさに夫である文氏の外遊日程が決められることもあったという。
最も世間を驚かせたのは、今年に入って明らかになった単独によるインド訪問での贅沢(ぜいたく)ぶり。大統領本人は乗らないのに大統領専用機に乗り、青瓦台職員13人を随行させ、日程の最後にはやはり観光地である世界遺産のタージマハルを訪れた。
しかも当初、インド政府は大統領夫人ではなく、文化観光相を招請していたことも判明した。文化観光相が訪問していたら、経費は金氏の15分の1で済んだという。
このため特別検察官による捜査は、尹氏夫人ではなく文氏夫人からすべきだという指摘もある。
大統領室は尹氏当選時に50年ぶりに廃止した、大統領夫人の活動を補佐する専門機関の復活を決め、夫人の言動に目を光らせる構えだが、国会では与野党が「高級バッグ」対「インド訪問」で対立するなど、両夫人の疑惑が政争の具と化している。