
天安門事件の取材と関連か
5月31 日午後10時10分ごろ、家のドアが叩(たた)かれた。宅配便かと思ってそっと開けると中国公安4人が立っていた。外に出て話すと「法規により住宿登記(滞在地申告)とビザを確認しに来た」という。1年のビザ更新期間はかなり残っているのに、金曜日の夜にいったい何の用なのかと思いつつも、余計なことを言わず確認手続きを終えた。
そのまま帰るかと思ったが“本論”が始まった。公安は6月1日(土)と2日(日)の取材計画を聞いた。週末に何の取材計画かと反問すると、彼らは「北京で平和に過ごしたいなら中国法を遵守(じゅんしゅ)しなければならないことを常に念頭に置け」などと遠回しに言った。「わが家にだけに来たのか。他の特派員の家も訪ねたか」と聞くと「北京にいる全ての記者の家を訪問することができる」という曖昧な話だけを繰り返した。
一人が「6・4と関連してあなたの会社の報道計画はどうなっているか」と聞いてきた。結局、これが結論だった。6・4は天安門事件を指す。週が明ければ同事件35周年になるが、その報道計画があるのかを尋ねるための訪問だったのだ。同時に密(ひそ)かな圧迫をかけようとする意図も感じられた。彼らは「中国に対するフェイクニュースでなく、“本当の中国”を報道してほしい」とも強調した。
公安が帰った後、不審な点が幾つか頭をよぎった。実はこの2日前、韓国本社のデスクとウィーチャット(微信=中国版LINE)で天安門事件35周年関連の話をした。「1日か2日に(天安門広場を)一度回ってみて」という指示を受けていた。
ウィーチャットの対話内容を中国公安当局が覗(のぞ)くことができるという疑惑や心配は以前からもあったが、このようにすぐに訪ねてきて取材日程を聞き、中国の法律遵守を強調するのは、露骨に「われわれが見ている」と警告するものだと分かる。他の特派員たちの家には訪問していないことも、こんな疑いをさらに強くさせた。
これだけではない。この日の帰宅時間は午後10時ごろだった。ところがその10~20分後にドアが叩かれたことをどう解釈すればいいだろうか。近所で待っていて家に入るのを見て来たのか、あるいは、疑わしいだけだが、ウィーチャットを覗いていたように位置情報まで把握しているのだろうか。公安が強調した「本当の中国」の姿がこういうものかという気がした。
中国では国家安全機関が法により個人と組織の電子装備、施設などに対して検査を実施できる内容の「国家安全機関行政執行手続きに関する規定」等が7月から施行される。するとインターネットには、中国に入国する全ての旅行客が携帯電話の検問を受けるという話が出回った。これについて中国国家安全部は、「荒唐無稽な話」として「海外の一部反中勢力がまき散らした流言飛語」だと一蹴した。携帯電話を検査する条件と対象、手続きが全て明確だという説明だ。だが、予想できないことを実際に体験したので、こうした心配がただの流言飛語だとは受け取れない。
(イ・ウジュン北京特派員、6月17日付)