【ポイント解説】侮れない“兵器”風船爆弾
北朝鮮の軍事力は核ミサイル(未確認)から汚物風船まで多種多様で、その総合力、多様性には感心させられるほどだ。わが国でも太平洋戦争時に風船爆弾を飛ばした。数千個を偏西風に乗せ、そのうちの幾つかは米本土に到達して具体的被害を与えたというから侮れない“兵器”だった。
だから北朝鮮の汚物風船にも韓国は敏感に反応している。何よりも南北は指呼の間で風船は相手側に届く。確認されているのは「タバコの吸い殻、堆肥、廃布切れ」などだが、もしこの中に生物・化学兵器や爆弾を忍ばせていたら、具体的被害を与えることができるからだ。
しかし中身がなんとも低劣である。およそサイバーテロ、金融制裁、情報戦、心理戦などが駆使される現在の戦争の中で、相手に「炭疽(たんそ)菌」でなく汚物を送りつけるという原始的な手法で何のダメージを狙っているのだろうか。確かに民家の庭や都市の真ん中に堆肥やぼろ布、吸い殻がまとまって落ちてきたら気持ち悪くて手が付けられないだろうし、数が多くて範囲が広ければ都市機能をマヒさせるぐらいの効果はあるだろう。
これまでは韓国側が北に向けて風船を飛ばしてきた。KPOPやドラマのDVD、韓国の豊かな生活を知らせる雑貨、さらには北の体制の実態を伝えるものが積まれていた。金正恩氏はこれをひどく嫌い、文在寅政権は北に一喝されると慌てて自国民の“啓蒙(けいもう)活動”を禁じる始末だった。
今回はカップ麺や映画といった平和的文化的なものでなく汚物を北が南に飛ばしてきた。これは単なる嫌がらせではないと韓国は見る。「大きなテロにつながる前兆」の可能性が高いというのだ。年末年始には金正恩氏は韓国を「第一の敵国」とし、戦争相手だとした。その言葉が嘘(うそ)や虚勢でないことが具体化する状況に対応した体制づくりに、韓国でも本気で取り組む時期に来ているようだ。
風向き次第では日本に汚物風船が届くこともあるだろう。ミサイル警報と共に風船警報が必要になってくるのか。(岩崎 哲)