恐怖感醸成狙う多目的策略
非対称戦力は戦争で兵力の差を克服するための戦略的・戦術的手段をいう。この概念はアンドリュー・マックがベトナム戦をモデルに1975年『世界政治』に発表した論文『なぜ軍事的強大国が小規模戦争で敗北するのか?』で初めて使われた。
北朝鮮は継続するミサイル挑発と共に先月28日から約1000個の汚物風船を散布し、GPS電波を攪乱(かくらん)するなど、稚拙な対南灰色テロを敢行している。北朝鮮体制の特性上、これは金正恩総書記の指示なくしては不可能だ。
金総書記は昨年12月、党中央委員会総会で「対南路線の根本転換」を宣言し、その後“セルフ偶像化”に乗り出している。だが、内部的には持続する経済難の中で、エリート層の脱北が増加するなど状況は甘くない。この渦中での韓中日首脳会談と衛星発射の失敗は、彼の機嫌を一層損ねさせた。突破口が必要な状況だ。
結論から言えば、相次ぐ対南挑発は国際社会における存在感の誇示、韓国の国民に対する恐怖感植え付け、内部取り締まりなどを狙った多目的策略だ。
北朝鮮は南北の国力差が拡大する上に国際社会での孤立など困難を経ながらも韓半島の赤化戦略を放棄したことはない。問題は現在の戦争遂行能力を考慮すると、対南全面挑発は難しいという点だ。これを打開する手段として選択したのが非対称戦力である。
ただし核は現実的手段として制約があり、サイバー攻撃は威嚇が衝撃的でないという限界がある。現在としては最も有効な非対称戦力手段が国家関与形態のテロなのだ。そのような面からみれば、現在のような低強度の挑発は前奏曲にすぎず、究極的にはどんな形態であれ高強度のテロにつながる素地が濃厚だ。
韓国政府は今回の事態を契機に拡声器の再開と南北軍事合意(2018年)の無効化などの手順を踏んでいるが、それより人命殺傷や建造物破壊のようなテロを偽装した物理的挑発を行う場合への対策がすぐに必要だ。
韓国の現実としては、西側世界を狙った中東発のテロよりは北朝鮮による国家テロ発生の可能性が大きい。従って、ひとまず高強度の物理的テロは北朝鮮の挑発だという前題で、「統合防衛法」に基づいて対応シナリオと民官軍の協力システム構築が重要である。
また、有事の際に全ての状況を国民に詳細に知らせて“南南葛藤”(韓国内の対立)の罠(わな)に陥らないようにしなければならない。このためには、何より政界の協力が重要だ。国家安保には与野党の別はない。
(チェ・ソンジュン西京大教授・軍事学科長、6月5日付)