地方医療は限界に
「最後の治療だけでも受けていれば…」
今年3月末、忠清北道報恩生まれの3歳にもならない子供が亡くなった。最初に搬送された病院でしばらく呼吸が戻ったが「病床がない」「医療スタッフがいない」との理由で、忠北と大田、世宗、忠南、京畿の11の上級総合病院(病床数500床、診療科20以上、各診療科に専門医は1名以上)に転院させようとしたが、拒否・遅延によって息を引き取った。
祖母は金榮煥忠北知事に会って、「病院で最後まで最善を尽くすべきだったのに、これが話になるか」と、幼い孫の死に涙を流したという。歯科医出身の金知事は、「必須・応急医療システムの死角地帯にある忠北の現実がそのまま反映された事故」だと残念がった。
「家族は“重要なもの”でなく“全て”」という言葉がある。医療脆弱(ぜいじゃく)地の農漁村では、その“全て”の運命を一瞬にして分ける所の一つが病院だ。農漁村の病院で手が付けられなければ、数十~数百㌔離れた上級総合病院へ向かわなければならない。
長期化する必須・地域医療の空白事態の中で、全国各地で発生する痛ましい知らせに心が重い。農漁村地域の重症・応急患者は、近くに適切な治療・手術を受けられる病院がなくて生命を失うことが発生しているためだ。
「全ての国民は人間としての尊厳と価値を持ち、幸福を追求する権利を持つ」。憲法第2条、第10条の内容だ。だが現実はそうなっていない。特に農漁村の住民たちの医療サービスを受けるためのシステム構築が急がれる。
保健福祉部(省に相当)が指定した応急医療の脆弱地は98市郡に及ぶ。これら医療脆弱地の病院は必須医療の先鋒(せんぽう)であり、最後の砦(とりで)という使命感で耐えてきたが、持続する経営難と医療人材確保難などが限界に達したというのが、昨年1月創立した「農漁村医療脆弱地病院長協議会」の診断だ。
李祥敏行政安全部長官(閣僚)は先月24日、医師集団行動中央災害安全対策本部の会議で、「危機に直面する地域医療の正常化は国民の生命と健康を守るための国家の憲法的責務」だと述べた。その通りだ。
憲法は「国家は個人が持つ不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負う」と規定している。全ての国民は同じ名目の税金を出す以上、いつどこででも良質の医療サービスを受けられなければならない。
医大定員の拡大で尖鋭(せんえい)化している医療界と政府の対立が国民の生命まで脅かしてはならない。「家庭の月」である5月は“全て”に外ならない家族を振り返ってみるものだ。政治や理念、利権などの理由を問わず農漁村住民も自分にとって“全て”であるものを健康に守っていくことができることを希望する。
(ユン・キョグン社会2部記者、5月7日付)