トップ国際朝鮮半島「野ウサギ追い、家ウサギ逃す」 尹氏「独善」に積もった怒り【連載】瀬戸際の韓国保守―総選挙与党惨敗(上)

「野ウサギ追い、家ウサギ逃す」 尹氏「独善」に積もった怒り【連載】瀬戸際の韓国保守―総選挙与党惨敗(上)

1 日 、 ソ ウ ル で 国 民 向 け 談 話 を 発 表 す る 韓 国 の 尹 錫 悦 大 統 領 ( 大 統 領 府 提 供 )( E P A 時 事 )
与党惨敗、野党圧勝に終わった韓国総選挙を受け、保守陣営はこれまでになく危機感を募らせている。敗因はどこにあったのか。大統領弾劾まで視野に入れる議席を確保した野党陣営の攻勢にどう対処するのか。瀬戸際に立たされた韓国保守の現状を報告する。(ソウル上田勇実)

「野ウサギを追ったが捕まえられず、その隙に家ウサギまで逃す愚を犯したのが今回の選挙だ」

与党・国民の力が大敗した原因について、ある保守派の識者はこう指摘した。韓国では政治を語る時、固い支持層のことを比較的簡単に捕まえられる「家ウサギ」に、また政敵の支持層や浮動層のことを捕まえるのが難しい「野ウサギ」にそれぞれ例えることがある。与党が中道・左派の有権者を意識するあまり、足元の一部保守派に背を向けられたというのだ。

今回の総選挙は尹錫悦政権が発足してほぼ2年になる時点で実施された事実上の政権中間評価だった。この2年、尹氏は大統領に当選した時とそれほど変わらない30%台の支持率に低迷してきた。

地域感情が根強い韓国では、慶尚道(南東部)が保守の地盤、全羅道(南西部)が革新の地盤で、浮動票が多い首都圏などが勝敗のカギを握っている。尹氏は支持基盤を死守することにはあまり力を入れず、支持拡大のため中道・左派向けのメッセージを発信した。

代表的なのが、尹氏が南西部の光州を訪問した際、軍政に反対して民主化運動を主導した市民が多数死傷した光州事件(1980年)の「民主化精神」を憲法前文に盛り込むと繰り返し述べたことだった。事件はその後、左翼学生運動とその親北化につながっている。

総選挙の応援遊説をする韓東勲・国民の力 非常対策委員長 = 9日、ソウル市江西区(上田勇実撮影)

与党トップとして今回の選挙に臨んだ韓東勲・非常対策委員長も今年1月に光州を訪問し、尹氏の意向に同意した。

しかし、その場で拍手をした左派の有権者は、今回の選挙で光州はおろか、そこを取り巻く全羅道の地域区で与党に1議席も与えなかった。逆に与党や保守派から反発が起こり、その感情は今もくすぶっている。「野ウサギ」にも一部の「家ウサギ」にも逃げられるという戦略の失敗だ。

一部の「家ウサギ」を逃すことになったもう一つの原因に、選挙期間中に北朝鮮や中国の脅威に韓氏や候補者たちがほとんど言及しなかったことを挙げる人もいる。「金正恩総書記がミサイル発射を繰り返し、戦争準備に勤(いそ)しんでいる中、国会で民主党が反対するので首都圏の防衛網強化が進まないと訴えれば、票にならないはずはない」(保守派論客)というのだ。

与党について少なくない保守派から「理念を放棄した」「もはや保守政党ではない」という落胆の声が出始めている。

傲慢(ごうまん)で疎通不足な尹氏のスタイルが与党の足枷(あしかせ)になったとする見方も多い。長年、韓国政治を取材してきたあるジャーナリストはこう指摘する。

「検察出身の尹大統領は政治家や企業経営者など有力者の罪を暴く仕事などに従事し、大統領になっても上から目線の傲慢な意識になりやすかったのではないか。韓国人はリーダーの傲慢を嫌う。そんな大統領に側近たちが忠告や進言できるムードもないようだ。その上、突っ込まれるのに慣れていないのか記者会見をほとんどせず、極端な疎通不足だった」

人事でも検事出身者を多く登用し、野党から検察独裁と揶揄(やゆ)された。贈り物のブランドバッグを隠し持つようにしていたり、派手な化粧や振る舞いで外出する夫人・金建希氏への嫉妬(しっと)や反感も女性有権者を中心に広がっていた。「積もり積もった尹氏の独善に対する国民の怒り」(元政府系機関幹部)が、革新系の最大野党・共に民主党の李在明代表が抱える各種疑惑や祖国革新党の曺国代表が受けた有罪判決に対する嫌悪感を完全に覆いかぶせてしまったのが、今回の総選挙だと言えるかもしれない。

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