【韓国】民主主義を危機に追い込む無限対決 閉じられた保守と進歩

韓国の尹錫悦大統領=13日、オランダ・ハーグ (E P A時事) 
韓国の尹錫悦大統領=13日、オランダ・ハーグ (E P A時事) 

尹大統領に求められる「韓国保守3.0」

韓国では4月の総選挙がいよいよ佳境に入っている。韓国の政治意識を論じるときに出るのが「保守30%、進歩30%、中間層40%」だ。保守と進歩の支持層はそれぞれ「岩盤」に近く、これ以上に増えもしなければ減りもしない。大統領選を行えば得票率で「51対49」の僅差になることが多く、中間層をどれだけ取り込んだかで勝負がつく。

この保守と進歩の相克を分析したのが金皓起(キムホギ)延世大教授が新東亜(3月号)に載せた「閉じられた保守・閉じられた進歩が大韓民国の未来を閉じる」だ。金教授の問題意識は「最近の保守と進歩すべてが限界に直面している」として、「閉じられた保守と閉じられた進歩の無限対決は政治両極化を固着させて民主主義を危機に追い込んでいる」という危機感だ。

ここで言う「閉じられた」とは「お互いの意見が対立して闘争する傾向」を表しており、非妥協的態度で終始する韓国政治の実情を指すものだ。どうしてそうなっていったのか。金教授は韓国における「社会理念の歴史」の特殊性にあると説明する。すなわち、韓国では1950年に同族が自由と共産に分かれて相争う韓国動乱を経験した。これ以降、「冷戦分断体制が強化され、進歩勢力の活動空間は不許可になった」という事情があった。

その結果、当時の韓国は「反共国家」として世界に知られることになる。共産主義は学問領域から追放され、書籍すら閲覧することはできなかった。禁止されれば地下化するほかない。北朝鮮は南の共産革命のために工作員や諜報(ちょうほう)員を送り込み、大学界を中心に思想工作を進めていった。

彼らの活動が“花開く”のは87年になってからだ。「6月の民主化運動を通じて社会的市民権」を得た。その後「99年には民主労働党の創党を通して『政治的市民権』を獲得」し、「21世紀に入って保守と進歩の対決構図が本格化した」と金教授は歴史をなぞっている。

一方、保守は建国以降、長らくヘゲモニーを握ってきた。朴正熙大統領は「経済成長という目標のために民主主義を保留できる」という政治理論を据えた。国家の存続こそ最大の福祉であり、個人の人権に勝るものだとの考え方だ。

この“朴正熙主義”を「韓国保守1・0」とすれば、経済発展を遂げ先進国へ飛躍する時期が「韓国保守2・0」となる。現在の尹錫悦大統領には「韓国保守3・0」が求められており、「新冷戦に対処する安保力量と加速する科学技術革命を先導する経済力量を強化」しなければならない。

ただし金教授は直面する課題も挙げた。「経済的・社会的課題に対する不満と批判の拡大」に対して、「理念と分断」を増幅させるのではなく、「開かれた保守」に進み、「中道統合」を目指さなければならないと提案している。40%の部分を包容していくべきだということだ。

進歩の側は「反独裁闘争」が「韓国進歩1・0」であるとするなら、「経済民主化、福祉国家、韓半島平和論(南北対話)」が「韓国進歩2・0」に相当するだろう。金教授は文政権に「韓国進歩3・0」が求められたが、「国政には明暗があった」として、「不動産政策の失敗、公正実現で正当性を喪失したし、積弊清算で一貫して社会統合を編み出すことができなかった」と断じている。「公正実現で正当性を失った」とは「自分がすればロマンス、他人がすれば不倫」と言われた二重基準のことで、国民から呆(あき)れられた。

その結果、進歩陣営は大きなダメージを受けた。すなわち「民主化時代から固い支持層を形成した20、30代の多数が進歩から距離を置き始めた」ことだと金教授は言う。理由は進歩勢力が「既成の保守既得権と差のない新興既得権」になり下がったことだ。

保守、進歩に両極化し、それぞれの陣営には過剰な「ファン層」が張り付いて、互いに相手を微塵(みじん)も受け入れない。それを正すには「公論の場と市民社会の自体節制が重要だ」と説く。

総選挙は与野党共に互いの支持層固めに奔走して「閉じられた」運動に突き進んでいる。「開かれた大韓民国」を切望する金教授の願いはどうなるのだろうか。

(岩崎 哲)

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