
韓国政府の大学医学部定員増の方針に研修医(インターン、レジデント)が反発、現場を集団離脱している問題は、発表から1カ月近くたっても依然、収まる気配が見えない。政府は現場復帰を呼び掛けているものの、要請に応じたのはごくわずか。保健福祉省は、研修医約7000人について、医師免許停止処分の方針を決めた。(ソウル・上田勇実)
事の発端は先月、韓国保健福祉省が現在全国で3000人余りの大学医学部定員を来年度から一挙に2000人増やす方針を発表したこと。韓国は人口比の医師数が世界的に少ないにもかかわらず、医学部定員は2006年から19年間も凍結されたままだった。
これまで医師たちは、患者が集中し医師の給与も高い都市部の大学病院に勤務したがる傾向が強く、医師不足に悩む過疎地や農村部などで使命感を心の支えに働く医師が比較的少ないという地域間アンバランスも問題になっていた。そのため定員増は地方大学の医学部を中心に行う計画だという。
ところが、この方針に全国の研修医が反発し、主要な研修先の病院100カ所で1万人以上が退職届を出し、9000人以上が現場を離れた。
増員すれば将来の自分たちの所得減が予想される上、苦労して難関医学部の試験を突破した自分たちが、学力の低い増員組と同じ扱いを受けるのは不当だという不満もあったとみられる。先輩医師とは異なり、「教授に保護されている」立場にいるため、他の医師グループより先に集団行動に踏み切りやすかったという事情もあるようだ。
研修医の集団離脱で医療現場では混乱が発生している。韓国メディアによると、研修医は全医師の約1割にとどまるが、大規模病院では比較的低賃金で長時間勤務を強いられやすい研修医への現場依存度を高めているからだという。
特に「ビッグ5」と呼ばれるサムスンソウル病院、ソウル峨山病院、ソウル大学病院、ソウル聖母病院、セブランス病院の5病院は、医師の実に3割から4割が研修医。ソウル大学病院の場合は5割近くに達するという。彼らが病院業務の半分以上を処理しているという話もあるほどだ。
このため、がんや出産など緊急を要する手術が延期や取り消しされる事態が続出している上、救命救急センターで医師不足となり、患者が追い返される事態まで発生している。
研修医の穴を埋める業務に奔走しているのは主に看護師たちだが、大韓看護協会は緊急の記者会見を開き、「処方が出せない看護師は鎮痛剤すら与えられず、医師たちとも連絡が取れない」「心肺停止の患者に対する応急薬物の投薬もできずにいる」などと窮状を訴えた。
事態を重く見た政府は、研修医に対し、先月末までに現場復帰するよう促したが、期限までに戻ってきたのは全離脱者の約6%にすぎない565人。依然として研修医全体の7割以上が離脱したままだ。
しびれを切らした保健福祉省は4日、復帰の要請に応じない研修医約7000人について、医師免許停止処分の手続きを開始すると発表した。
日刊紙・韓国日報は社説で、ソウル大学医学部長が卒業式の祝辞で「医師が崇高な職業として社会的に評価されるためには高い経済的水準(給与)が重要ではなく、社会的責務を遂行しなければならない」と述べたと紹介。朝鮮日報も「医師たちが患者の命を人質に集団闘争を繰り広げるのは、労組の違法ストよりはるかに深刻な問題」と指摘した。
ケーブルテレビのJTBCが先週実施した世論調査によると、今回の問題について86%が「医学部定員を増やすべき」と回答。「増やす必要はない」(10%)を大幅に上回った。