
多様な観点の論議の出発点に
今月1日に封切りされたドキュメンタリー映画『建国戦争』が好調な興行成績を挙げている。李承晩(イスンマン)元大統領と建国第1世代に再び光を当てた映画だ。損益分岐点の観客動員数20万人を早くも超えて、先週末70万人の記録まで破った。保守団体と関係者がクラウドファンディングを通じて支援し、観覧を勧めたことを考慮しても“大当たり”の実績だ。
「1960年4月19日、その日から大韓民国の歴史において李承晩のすべての記録は非難と歪曲(わいきょく)に変わり始めた」。映画は85歳の李大統領が4選目に挑戦した背景から探っていく。選挙の1カ月前、民主党の趙炳玉(チョビョンオク)候補の突然の死で大統領はその時点で決まり、3・15不正選挙は李起鵬(イギブン)を副大統領に当選させようとする側近らの権力欲から生まれたものだと分析する。
朝鮮半島の南半分だけの単独政府(大韓民国)樹立や親日派清算(李大統領が親日派を清算しなかったとの批判)などに関して反論の根拠を示し、李大統領の農地改革や女性への参政権付与、民主主義の意志などの肯定的な側面も紹介する。
歴史には紆余(うよ)曲折があり、歴史的人物には功罪があるほかない。李大統領の在任中、済州島四・三事件(1948年~54年)や4・19革命(1960年)などの過程で無実の民間人が犠牲になったのは事実だ。しかし、映画『建国戦争』が紹介するように、民主主義の大韓民国建国の功を隠すことはできない。共産主義でなく民主主義に国家の道を定め、土地資本でなく産業資本が経済の主役になるようにした業績は決して見過ごしてはならない。韓国がいま享受するこの豊かさの土台になったではないか。いくら歴史解釈は後世の役割だとしても、李大統領を「悪魔」とだけ描写するのは自虐である。
先月初め、韓国社会および性格心理学会は、今年、韓国社会が注目しなければならない社会心理現象として「確証偏向」(確証バイアス)を挙げた。自分の考えや信念を確認しようと、見たいことだけ見て、聞きたいことだけ聞こうとする傾向だ。韓国社会が歴代大統領をきちんと見ようとしてきたのか、疑問である。
映画『建国戦争』が歴史的人物について多様な観点から論議する出発点となることを期待したい。先週末、映画を見て出てくる時、「若者たちがたくさん見なければならないのだが…」と語った老観客の言葉が耳に残る。
(パク・ヒジュン首席論説委員、2月20日付)