金正恩氏の挑発と胸の内

2月27日、平壌で開かれた朝鮮労働党中央委員会総会で発言する金正恩総書記(朝鮮通信・時事)
2023年2月27日、平壌で開かれた朝鮮労働党中央委員会総会で発言する金正恩総書記(朝鮮通信・時事)

赤化統一の旗印は降ろさず

「もはや同族ではないから南側を核攻撃する」。年初、北朝鮮の金正恩総書記がこれまで掲げてきた「3代世襲」の正統性を担保する「祖国統一」の旗を下ろし、韓国を「主敵」と規定しながら「南半分の領土を平定する準備をせよ」と発言して衝撃が走った。これに対して米国の北朝鮮専門家は「韓国動乱直前に匹敵するほど危険」とまで強く反応したのだが、意外にも韓国ではそれほど大騒ぎはしていない。

とはいえ、北専門家にすればこの大きな変化を無視するはずもなく、各種の分析が行われている。月刊中央(2月号)に北朝鮮問題の第一人者で高麗大統一融合研究院院長の南成旭(ナムソンウク)教授が原稿を寄せた。

南教授はこの発言を受けて、金正恩氏の胸の内を想像した。彼が「昨年の最大の成果」として挙げるのは「軍事偵察衛星の打ち上げ成功」で、これによって韓国と米国が「国連制裁解除と北核容認に対するわれわれ(北朝鮮)の要求を受け入れる日も遠くない」と喜んでいるだろうと推察した。

衛星打ち上げではロシアの支援が欠かせなかった。支援を獲得したのは昨年9月、ロシア極東のボストーチヌイでプーチン大統領と会談した際、「弾薬とミサイルを積んだ2000個のコンテナをシベリア鉄道に積んで」持って行ったからだとし、普段“遅刻魔”として知られるプーチン氏が「先に来て(自分を)待つのを見ると、やはり外交は相手が願うものを持っていかなければならない」と“外交手腕”を自画自賛しているだろうと想像した。

米大統領選でトランプ氏が返り咲けば“ビッグディール”も可能だろうし、南には総選挙を控えて「民心を攪乱(かくらん)する心理戦」を展開するともしている。

最近、視察などに連れ歩いている娘の主愛(ジュエ)氏について「最高のヒット商品」であり、「4代世襲で共和国が永遠に続くから面従腹背するなというメッセージを人民に広報する宣伝戦略」だろうと見た。

次は南教授の分析だ。この「対南挑発威嚇と敵対発言の底意」は、▲北の深刻な民生破綻に対し国民の目を逸(そ)らす▲責任を韓国側に転嫁▲韓国と米国の内政(選挙)に介入しようとする策略▲南国内の世論分離戦術―などだと分析している。韓国側専門家にほぼ共通する意見だ。

しかし、金正恩氏は決して南北統一を諦めたわけではなく、「北朝鮮による南朝鮮全領土平定方式で推進する」赤化統一の旗印は降ろしてないという。これも共通したもので、実際、この旗を下ろしたら世襲政権の正統性が揺らぐ。

従って韓国が金正恩氏の発言に動揺しないのは「大部分の国民は北朝鮮の挑発をよく仕組まれた一つのドラマとして受け取り、慢性的な挑発に適応していくうちに深刻な不安を感じられなくなっている」からだと警告もしている。

これに対応するため「強力な軍事的抑止力」が「唯一の対応策」であって、「圧倒的な経済力と国防力で平壌の挑発が招く結果が金正恩体制の崩壊になるとのシナリオを見せなければならない」と述べている。

これから南北境界で小規模な武力衝突も起こっていくだろうが、“安保不感症”に陥っている韓国が正しく対応できるかどうか、内政にばかり目が向いている韓国の政官民もドラマを見ている気分では済まされないだろう。

(岩崎 哲)

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