【ポイント解説】選挙の年に吹かせる北風
金正恩総書記の発言は常に聞く者を強く意識している。発言の影響と効果を綿密に計算し、タイミングを計って吐き出す。今回の「韓国敵対国」発言は米国の北朝鮮専門家をヒットした。狙い通りに驚いてくれた。「金正恩が戦争すると決定を下した」と反応したのだ。
一方韓国では「米大統領選でのトランプ再登板でビッグディール」を狙ったものだとか、4月の総選挙を控えて保守政権を揺さぶって左派に有利な世論をつくろうとしている、との分析だ。
いずれにしても、米韓とも軍事挑発があり得ると見ている。金正恩は核を保持した以上、いくら日米韓が協力体制を組んだところで、核での反撃はできないと踏んでいる。ロシアがウクライナの領土の一部を一方的に侵略併合しても、国連や北大西洋条約機構(NATO)がロシア本土を攻撃できないように、北朝鮮が韓国の一部を軍事占領するか砲撃しても、既に今受けている国連制裁以上の締め付けはできず、相変わらずロシアに砲弾を売り、中国の後ろ盾を得られると読んでいるのだ。
ただ一つ前提条件がある。ウクライナに核がないように韓国に核がないことだ。確かに去年の日米韓によるキャンプデービッド合意で拡大抑止を確かめたが、核があるとは公言していない。北朝鮮は韓国の左派勢力や従北派を使って韓国政府をがんじがらめにしようとするだろう。
その一方で、こうして緊張度を高めて、ジュネーブ合意(1994年)、6者協議(2003年)、米朝首脳シンガポール会談(2018年)を勝ち取ってきたように米朝間で何らかのものを得るつもりだろう。
とりあえず韓国にできることは“北風”に惑わされず総選挙で韓国民が正しい選択をすることだが、実際に過去の選挙で北風の影響はほとんどなかった。政争内紛に明け暮れている韓国政界の目はあくまでも内側を向いているから。
(岩崎 哲)