“わが道を行く”金正恩総書記の狙い

28日午前、潜水艦発射型の戦略巡航ミサイル「プルフアサル(火矢)—3—31」の試射を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(朝鮮通信・時事)
28日午前、潜水艦発射型の戦略巡航ミサイル「プルフアサル(火矢)—3—31」の試射を視察する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(朝鮮通信・時事)

核頼み攻勢的な局面転換

新年早々、韓半島に戦争危機説が飛び交った。北朝鮮の金正恩総書記の発言が信号弾になった。韓国を「徹頭徹尾、第1の敵対国」「不変の主敵」と規定し、「戦争が起きる場合、大韓民国を完全に占領、平定、修復し、共和国の領域に編入させる問題を憲法に反映させよ」と指示した。

世界で唯一無二の3代世襲体制の名分は「先代の遺訓」だった。核武装が祖父金日成と父金正日が正恩氏に伝えた“非公開の遺訓”だったとすれば、「一つの民族」「祖国統一」は国内外に表明した遺訓だった。核兵器を手にした金総書記が「一つの民族」の遺訓を廃棄して韓国相手に交戦云々(うんぬん)すると、一部の韓半島専門家たちは悲観的展望を出した。

「1950年、彼の祖父(金日成)がそうしたように、正恩氏が戦争をするという戦略的決定を下したと見る」。これを北朝鮮分析サイト「38ノース」に寄稿した米ミドルベリー国際問題研究所のロバート・カーリン研究員と核科学者ジークフリード・ヘッカー博士は米国内で屈指の韓半島専門家だ。

こういう類いの分析は2019年(トランプ米大統領=当時=との)ハノイ会談の失敗後、金総書記の戦略路線転換と露朝密着に伴う情勢変化を根拠とした推論にすぎない。トーマス・シェーファー元駐北朝鮮ドイツ大使は「38ノース」に反論を載せ、11月の米大統領選挙でのドナルド・トランプ再登板を念頭に、対北制裁緩和と北核凍結、在韓米軍削減を目標に“第2のビッグディール”を試みるというのが金総書記が緊張度を高める意図だと見た。

挑発の見通しは違っても正恩氏が新しい局面をつくろうとしていることには異論がない。

80年間の南北関係のパラダイムを変えるという正恩氏の発言は一見破格なものだ。ルール変更を叫ぶほどに北朝鮮内部の雰囲気が尋常でないという兆候だ。長い制裁で累積した経済難、若い世代の韓国社会・文化に対する憧憬(しょうけい)、高難度の4代世襲作業が金正恩体制を不安にさせている。

ただ、守勢の立場で局面転換を試みた過去とは違い、正恩氏には“万能の宝剣”核がある。核弾頭40~50個を保有すると推定される北朝鮮は戦術核搭載が可能なミサイル発射試験を頻繁に行っている。核カードを使って局面を変えるという攻勢的な戦略だ。交渉相手はもちろん米国だ。

だが、核の人質として捕らわれているのは韓国だ。進歩・左派はこれまで、北朝鮮が同族の韓国に核を撃つわけがないといってきた。それなら民族を消して韓国を「第1の敵対国」と規定した今はどうなのか。韓国民に向けた北の露骨な核恫喝(どうかつ)に左派は沈黙している。

正恩氏がしばしば力を誇示しながら大韓民国の世論を揺さぶるのは簡単だ。「戦争か、平和か」のようなスローガンで国論を分裂させる勢力がいるから。それでも幸いなのは、数回の学習効果のおかげで国民がもはや“北風”には惑わされないということだ。

(黄政美編集人、1月30日付)

spot_img