韓国、次期台湾総統に心境複雑 「反中」支持の民意歓迎

中台対立時の北挑発警戒 海峡封鎖なら経済打撃

写真左:台湾の次期総統・頼清徳氏 (EPA時事)写真右:韓国の尹錫悦大統領 (EPA時事)

次期台湾総統に親米反中主義の頼清徳氏が当選したことを受け、韓国では周辺国に高圧的な中国の習近平体制に屈しない「民主主義陣営の砦(とりで)」が一つ守られたことを歓迎する一方、中国と台湾の軍事的緊張が高まれば北朝鮮が韓国に挑発の度合いを強める恐れがあるという警戒感も広がっている。手放しでは喜べない複雑な心境のようだ。(ソウル・上田勇実)

頼氏当選について韓国最大手紙の朝鮮日報は「台湾は『戦争するのか』という中国の脅しに屈服しなかった」というタイトルの社説を掲載した。

社説は、今回の台湾総統選を前に習主席が「頼氏当選なら戦争になるかもしれない」「台湾を中国と分離させようとするいかなる人物、いかなる方法も断固防がなければならない」と圧力をかけてきたことに触れ、露骨に戦争の脅威で揺さぶってきた習主席に台湾有権者が「NO」を突き付けた結果が頼氏当選だと指摘した。

中国、ロシア、北朝鮮など独裁体制の国が横暴な振る舞いをする中、東アジアで台湾が日米韓3カ国と共に自由民主主義を重視したことを歓迎する韓国保守派の思いを代弁したと言える。

韓国の尹錫悦大統領自身、当選直後に台湾問題について「力による現状変更に反対する」と述べて中国の反発を買うなど、事実上の「台湾支持」を打ち出したことがある。そこには民主主義陣営の一角として台湾に踏ん張ってもらいたいという願いもあったとみられる。

一方で韓国は、頼氏当選が今後もたらすさまざまな影響にも神経を尖(とが)らせている。

特に中国と台湾との軍事的緊張が高まった場合、「その間隙(かんげき)を縫い北朝鮮が情勢を見誤れば、軍事的挑発を強行する可能性がある」(韓国統一研究院の報告書)ことを危惧する声が目立つ。

同報告書は、米戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年1月に発表したリポートの中で、台湾海峡で戦争が勃発した場合、在韓・在日米空軍の派遣を予想したことに言及し、それが現実のものになった場合、「韓国は深刻な安保の空白・危機に見舞われる恐れがある」と指摘する。

実際に台湾海峡ですぐ戦争が起きる可能性は低いとの見方が多いが、「(習氏が3期目の任期を終える)2027年までの2~3年のうちに中国はどのような形であれ台湾統一に関する強いメッセージを出す可能性が大きい」(李熙玉・韓国成均館大学教授)。これが軍事的緊張に発展し、エスカレートすれば北朝鮮が韓国に危険な挑発をするのではないか、というわけだ。

北朝鮮の金正恩総書記は、このところ韓国を「主敵」と位置付けたり、著名な米専門家から「正恩氏は戦争を決断した」との論評が公表されるなど、きな臭いムードが漂っているだけに余計過敏になっている側面もありそうだ。

北の挑発以外に韓国が懸念するのは経済的影響だ。

まず韓国経済を牽引(けんいん)する半導体の供給網を巡り、韓国が台湾と足並みを揃(そろ)え「脱中国路線」を進める場合、「レアアース禁輸など中国の経済報復が予想される」(韓国国家安保戦略研究院の報告書)という。

頼氏は選挙期間中、「当選後に韓国との関係を強化し、半導体の新供給網の安保対話を開く」と発言している。

また韓国は原油輸入の9割以上が台湾東部の海域を経由し、全海上輸送量の3分の1程度が台湾海峡またはその近海を通過する。台湾海峡で戦争が勃発した場合、海峡封鎖や周辺海域の航行制限などにより韓国のGDP(国内総生産)は23・3%減少するとの試算もあり、韓国経済への影響は深刻だ。

韓国には、米中覇権争いが続く中で台湾寄りの姿勢を強く打ち出せば、中国から経済報復を受けかねないという不安もくすぶる。米韓同盟を基軸としながらも中国との関係を冷え込ませないバランス感覚の必要性を説く声も多い。

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