【ポイント解説】刃傷沙汰の本気度
韓国で政治家などが刃物で襲われるシーンとして思い出すのは2006年、朴槿恵ハンナラ党代表(当時)がソウル市内で選挙応援中に男にカッターナイフで襲われ右頬を60針縫う大怪我(けが)を負った事件だ。やすやすと政党代表に近づけた警護の緩さもあるが、そもそも刃物で女性の顔を狙うという野蛮さに衝撃を受けた。
顔に刃物と言えば、15年にリッパート駐韓米大使がパーティー会場で男に襲われ、頬から顎にかけて切られた上、左腕を貫通する傷を負った事件もある。襲った男はこれが初犯ではなく、10年には重家俊範駐韓日本大使に投石し、傍らにいた一等書記官の女性を負傷させていた。ところが執行猶予が付いて“野放し”に。「独島(竹島)は韓国の地」と叫んでいたことで左派政権の司法が甘い処断をして、この時収監していればリッパート大使は遭難しなかっただろうと言われた。
政治家が襲われるのは刃物だけではない。22年には民主党の宋永吉代表(当時)が男にハンマーで後頭部を4回殴り付けられる事件が起こっている。韓国では政治家が表に出る時には防刃服やヘルメットが必需品となりそうだ。
石よりも固くないが卵をぶつけられるのは普通のこと。今ではなくなったが、かつては催涙弾を投げ付けられることもあった。盧泰愚氏の大統領選挙運動中(1987年)、遊説台の上に催涙弾が投げ込まれたことがあった。盧氏の真後ろで取材していた筆者はその直撃を受け、涙鼻水よだれを流しながら咳き込んで息ができず取材どころではなかったが、平然と演説を続ける盧氏をみて「さすが軍人は違う」と変な感心をしたものだ。
1974年、朴正煕大統領夫人の陸英修女史が在日韓国人の文世光に銃撃された。大統領を狙った弾が夫人に当たったのだが、明確な南北分断を反映した政治テロだった。それに比べれば今回の李在明氏の遭難には“本気度”が見られない。与党支持者から「ショーだ」の声が出るのは不謹慎ではあるが、それもありなのかと思わせるものもある。
(岩崎 哲)





