北朝鮮人権問題に対する関心が韓国で再び高まっている。ソウルで開催された国際会議を契機に政府や有識者組織がメッセージを発信し、米国が主導するデジタル分野の北朝鮮開放に向けた研究も披露された。今後、日本人拉致問題の解決に向けたヒントを見いだせるかも注目される。(ソウル・上田勇実)

先週、ソウル市内で北朝鮮人権問題の有識者組織「北朝鮮人権賢人グループ」を招いた国際会議が開かれた。同グループは、朴槿恵政権時の2016年に韓国外交部の北朝鮮人権国際協力大使が音頭を取り、国連のマルズキ元北朝鮮人権状況特別報告者やカービー元「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会」委員長ら計8人で発足。その後、北朝鮮の独裁体制維持にとってアキレス腱(けん)とも言える人権問題に目をつぶった文在寅前政権下で下火になっていたが、このほど約7年ぶりに活動を再開させた。
会議には、この問題に積極的に取り組む尹錫悦政権からも関係閣僚らが出席した。大統領府の金泰孝・国家安保室第1次長は「北朝鮮の残酷な人権状況を詳細に知らせ、国際協力を続けるために韓国はいかなる国との外交や南北対話においても(北朝鮮の)人権問題を核心的な議題に含めなければならない」と述べた。
また金暎浩統一相は、北朝鮮住民への外部情報流入と関連し、「特に韓国ドラマなど韓流に親しんでいる北朝鮮のMZ世代(1980年代から2000年代生まれ)への情報流入効果は大きい」と指摘し、北朝鮮の一般住民が人権の重要性に目覚め、自由を渇望するよう誘導する政策の必要性に触れた。
元駐英北朝鮮公使で韓国与党「国民の力」の太永浩議員は、朝鮮戦争(1950~53年)当時の韓国軍捕虜問題や日本人拉致問題の解決を念頭に「北朝鮮に賠償を求める法廷闘争を始めるべきだ」とした上で、「北朝鮮の海外資産を探し出して差し押さえたり、各国にある北朝鮮大使館が現地で運営する不動産賃貸事業を中断させてその不動産を差し押さえる必要がある」と語った。
会議では米国で研究が進む、情報通信技術(ICT)を活用した北朝鮮への情報流入策についても紹介された。北朝鮮国内で利用されている携帯電話を国外から遠隔コントロールする方法などについて言及があった。極端に閉鎖的なネット環境の打破も研究が進むことが期待されている。
ただ、韓国や国連をはじめとする国際社会など“外野”がどんなに人権改善を促し、そのために圧力をかけても、これまで北朝鮮はビクともしなかった。核・ミサイル開発を止められないのと同じように、独裁政権が崩壊しない限り、人権改善は難しいとの諦めムードが漂っているのも事実だ。
だが、金正恩総書記は人権改善に全く無関心というわけではないとする見方もある。
北朝鮮民主化運動に携わるある韓国活動家によると、正恩氏は韓国ドラマの視聴や普及、脱北と密入国、違法な海外との通話など正恩氏が体制維持に影響を及ぼすと判断するような重大事案に対しては厳罰に処す一方、一般住民に「幸福感を抱かせる」必要性から、特に軽犯罪の捜査過程での拷問禁止や一般刑務所内での待遇改善、極貧世帯が引き起こした食糧を巡るトラブルなどへの処罰軽減など、ここ数年人権への配慮もなされる傾向が確認されているという。
このため「西側諸国の立場と一致するケースに限っては、正恩氏が北朝鮮国内の人権改善に応じる余地はある」(同活動家)というのだ。
北朝鮮は国内の人権を改善させようとする外部の圧力を体制への脅威とみなしてきた。だが、最高権力者である正恩氏の利害に合致すれば、部分的には人権改善が進むこともあるのかもしれない。