
「金日成奨学生たちが裁判を掌握するのか?」
今月4日、大手日刊紙の意見広告にこんな刺激的な言葉が載った。中身は韓国司法の左傾化に対する糾弾。広告を出したのは約3年前に結党した保守系のミニ政党だ。北朝鮮の金日成主席が過去に語った教示や1970年代に検挙された北朝鮮スパイの証言を基に、韓国で金主席から密(ひそ)かに経済支援を受けながら判事や弁護士になった司法関係者が驚くほどたくさんいる恐れがあると言及した。
<前回>【なぜ韓国は左傾化したか】(2)「親北反日」教師 学校乗っ取り父兄巻き込む
韓国では先月下旬、左派系最大野党「共に民主党」の李在明代表を巡る不正な対北送金疑惑などで、検察が李氏に対する逮捕令状を請求したが、裁判所はこれを棄却した。令状審査を担当した判事は今年、同党や左派活動家に対する令状をことごとく棄却していることから、意見広告は「金日成奨学生ではないのか」と疑いの目を向けている。
同党代表でソウル南部地方検察庁検事正を務めた高永宙弁護士は、韓国司法の左傾化を肌で感じたことが何度もあったという。
2002年、光州高等検察庁で次席検事だった高氏は、司法試験の3次試験で面接官を務めた。2次試験を突破した約1000人の受験生を10人ずつに分け、検事や大学教授ら4人で刑事、民事、国家観について質問した。
名門の梨花女子大を卒業したある女子受験生の順番が来た。高氏が「朝鮮半島で国家的伝統性は南北のどちらにあると思うか」と質問すると、女子受験生は「国連の承認を経て政府が樹立し、現在は大韓民国に伝統性があるように見えるが、国家樹立の主役が親日派だったので、どちらに伝統性があるかは少し考えてみなければならない」と答えたという。
「大韓民国に伝統性がある」と答えれば終わるものを、わざわざ「考えてみなければならない」と答えたのは、本心では北朝鮮に伝統性があると言いたかったからだと高氏は思ったという。
3次面接は1000人のうち明らかに問題がある1人か2人を落とす試験。高氏はこれだけでは落とせないと思い、もう一つ質問した。
当時、米軍装甲車に韓国の女子中学生2人がはねられ死亡する事故があったが、それについて「米軍は撤退しろという声が高まっているが、どう思うか」と聞くと、女子受験生は「当然撤退すべき」。さらに高氏が「米軍が撤退したら北朝鮮が攻めてくるかもしれないと考えたことはないか」と尋ねると、「米軍が撤退したからといってどうして北朝鮮が攻めてくるのか。南と北は仲良くしなければならない」と平然と答えたという。
受験生10人のうち8人が女子受験生と同様の認識だった。高氏があきれた顔をしていると、同じ面接官の大学教授から「検事正さん、驚いたでしょう。私たちは大学でいつもあのような姿を目にしているので、何ともないです」と言われた。米軍撤退を第一目標としているとされる左派系の全国教職員労働組合(全教組)から“洗脳”されたような司法試験受験生の姿に、高氏は唖然(あぜん)とするほかなかった。
高氏は検事任用試験の面接でも同様に歪(ゆが)んだ国家観を持つ受験生を見た。それでも検事は上席の検事から教育・監督されるが、判事は一度任命されると「司法の独立を盾にされ、誰も再教育する手だてがない」(高氏)。まるで「金日成奨学生」のように偏った思想信条に基づいて左派擁護の判決を下しても誰も止めることができないのだ。
(ソウル・上田勇実)