「総選挙優位」与党歓迎も
韓国左派系最大野党「共に民主党」の李在明代表が関わったとされる、宅地開発に伴う不透明な巨額利益捻出や不正な対北送金などの疑惑を巡り、検察が請求していた李氏の逮捕令状が27日未明に棄却されたが、審査したソウル中央地方裁判所の劉昌勲判事(50)は今年2月に令状担当専門の判事になって以降、同党の所属議員や関係者に対する令状をことごとく棄却していたことが分かった。李氏は「左派擁護」の判断を一貫して下す判事に土壇場で助けられた形だ。(ソウル・上田勇実)
劉判事はこの日、対北送金疑惑などについては「被疑者が関与したとみるだけの相当な疑いを抱く」としながらも、「直接の証拠が不足」と指摘した。また反論中の李氏の「防衛権」はまだ保障されるべきだとし、憂慮される証拠隠滅もすでに検察が十分な証拠をつかんでいる上、李氏自身も他の裁判に出席中で、政党代表として「公的監視と批判の対象」になっているため、心配ないと結論付けた。
この劉判事の説明について、判事出身で与党「国民の力」代表の金起炫氏は「罪が疑われ容疑を確信したのに令状を棄却するとはつじつまが合わない詭弁(きべん)のような決定」と批判。左派の文在寅政権下で築き上げられた「偏向的な司法体制」に問題があると指摘した。
かつて「親北反日」路線を敷いた文政権は、左派系判事が集まる「わが法研究会」の会長だった金命洙氏を大法院長(最高裁長官)に大抜擢(ばってき)したり、合憲・違憲判断の最後の砦(とりで)である憲法裁判所の判事9人のうち8人を左派系弁護士団体から選んだ。
その後、尹錫悦政権の発足を機にこうした「司法の左傾化」は大幅に是正されつつあるが、各地の裁判所で働く判事には左翼学生運動の経験や教育、マスコミなどの影響で「左派的発想に親近感を覚える」40代、50代も数多く残る。
劉判事自身、李氏の令状棄却は今年3月に続いて今回で2度目だ。前回は国会の逮捕同意案が否決されたことを棄却の理由に挙げたが、今回は可決されても棄却した。結局は「判事個人の政治信条が判決に影響する」(韓国保守系識者)との見方が強い。
韓国腐敗防止法学界の会長を務める辛奉起・慶北大学ロースクール(法学専門大学院)教授のまとめによると、劉判事は今年2月から今月27日まで計13件の事件に関する令状を棄却し、このうち実に11件は民主党関係者や左翼活動家などが被疑者になっていたケースだった。
例えば今回、検察が令状請求した「犯罪事実」とは別の宅地開発を巡る収賄疑惑が持たれていた元特別検事や民主党代表選を巡る贈賄疑惑に関わったとされる元同党幹部、極左政党「民衆党」(現進歩党)への違法な政治資金提供容疑で摘発された労組幹部などが、逮捕直前で劉判事の令状棄却に救われている。まるで「左派の救世主」だ。
今回、逮捕令状は棄却されたが、「李氏に罪がないということではない」(韓東勲法相)。検察は来月にも李氏を在宅起訴する構えだ。
民主党では今後、李氏の国会逮捕同意案表決で造反した非主流派に対する主流派からの風当たりが強まりそうで、党内紛の火種を抱え込んだ格好だ。
一方、与党内には「あれほど疑惑まみれで欠点の多い野党代表がいてくれた方が、来年4月の総選挙は戦いやすい」(幹部)など、李氏が逮捕を免れたことを逆に歓迎する声もある。