
黒潮の流れで薄まる放出水
2011年3月に福島第1原発事故が起き、13年3月に汚染浄化施設が稼働する時まで福島近海に原発汚染水は無防備に溢(あふ)れ出ていた。その量は今後、日本が浄化して放出するという放射能量の1000倍だった。
韓国は1994年から周辺海域(東海=日本海、南海、西海=黄海)で表層水、深層水、魚介類、海草類に対する放射能検査を毎年行っている。トリチウム、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムなど核物質から出る主要放射能を検査し、その結果を報告書にして海洋水産部と原子力安全委員会のホームページで公開している。
これを詳しく調べれば、この30年間の韓国の近海と海産物の放射能の推移が分かる。海水1㍑当たりのセシウムは1000分の1ベクレル、プルトニウムは10万分の1ベクレル程度で非常に低い。これら人工放射能物質は1950~90年代に米国、ソ連などが核実験を2000回以上行って、それが全世界に広がったものだ。現在の地球上のどこでも極微量の人工放射能は検出されている。
私たちが関心を持つべきなのは2011年以後の韓国近海の放射能濃度だが、これはその後全く変わっていない。すなわち、福島原発で処理されていない汚染水がどっと流れ出しても韓国近海はきれいであることが証明されている。
今後、日本は多核種除去設備(ALPS)で処理し、大部分の危険な放射能は原発敷地内に保管し、ろ過できないトリチウムは30年かけて放出する予定だ。その量は上海の近所にある中国原発から黄海に放出するトリチウムの10分の1に該当する。
幸いにも黒潮の流れは福島放出水を遠く地球の反対側に送り、太平洋を回ってくるうちに全て薄められて測定できないほど低くなって6~10年後に韓国に来るだろう。
私たちの食卓はどうか。微量のトリチウムが危険というなら、私たちが飲むミネラルウオーターには1㍑に1~2ベクレル入っており、韓国近海の海水より10倍も高い。トリチウムの大部分は太陽光によって成層圏で作られ、雨水として落ちてくるためだ。これが川の水となり海に流れて薄められる。
もし、トリチウム摂取を減らしたければ海洋深層水を淡水化して飲むか、魚など海産物をたくさん摂取すれば良い。陸上で採れる肉や野菜に比べ10分の1にしかならないためだ。
塩を買い溜(だ)めしようというが、既に全世界の陸上と海は核実験によって極微量のセシウムとプルトニウムで汚染されているから、1950年代以前の塩を買わなければならない。
私はこの20年間がん患者の診療とがん研究をしてきた。私の家族はがん、認知症予防のために健康に良い水産物を福島処理水放出後もずっと食べ続ける。
(カン・ゴヌク ソウル大病院核医学科教授、6月23日付)