東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出が早ければ今夏にも始まるとの観測が広がる中、これに反対する韓国左派の動きが急だ。尹錫悦政権発足を機に加速する日韓関係改善に悪影響を及ぼしかねず、日本政府も神経を尖(とが)らせている。(ソウル・上田勇実)
先週、韓国国会で左派系の最大野党「共に民主党」の「福島汚染水海洋投棄阻止対策委員会」や市民団体が主催して処理水放出に反対するセミナーが開かれ、海洋放出の“不当性”を指摘する声が相次いだ。
同党の対日屈辱外交対策委員長を務める金相熙議員は、処理水放出について「汚染水を水につけたら汚染水でなくなるわけではない」とし、「韓国や太平洋など海に接する国々に甚大な影響を及ぼす」と述べた。左派系野党「正義党」の姜恩美議員は「周辺国の憂慮にもかかわらず海洋放流するのは明白な無断投棄であり、犯罪行為だ」と指摘。急進左派の市民団体「韓国進歩連帯」の朴錫運共同代表も放出を「事実上、低度の核テロだ」と非難した。
セミナーでは「専門家」らも出席し、放出の「危険性」を口々に語った。日本からはシンクタンク「原子力情報資料室」の伴英幸氏が参加したが、親北政党「進歩党」の姜聖熙議員から「日本の国会ではこの問題が議論されていないのか」と問われると、「(放出)反対の議員は残念ながら少数で、政府の政策転換に至らず、個人的には情けなく思う」と答える一幕もあった。
経済産業省などによれば、放出される処理水は多核種除去設備(ALPS)などを用いてトリチウム(三重水素)以外の放射性物質を基準値以下まで取り除いた「浄化された水」だ。残ったトリチウムも自然界に広く存在し、世界中の原発から海に放出されているものの、それが原因の影響は見つかっていない。
一言で言うなら「安全であることが科学的に証明された水」であり、実は韓国の原子力専門家たちも数年前に同様の結論を発表した。にもかかわらず「処理水放出」を「汚染水海洋投棄」と呼び、科学的根拠が薄いと主張し続けるのは難癖をつけるのに等しい。
韓国では2008年、当時の李明博政権が米国産牛肉の輸入再開に踏み切ると、科学的に全く立証されていないことを無視し、左派陣営が「食べると狂牛病になる恐れがある」という噂(うわさ)を広め、大衆を巻き込んだ大規模な政権退陣運動に発展したことがある。健康や命の問題を“人質”に取って扇動し、政治的利益を得ようとする韓国左派お得意の手法だ。
韓国の処理水放出反対運動は一昨年から活発化。各地で反対集会が行われ、先月は800近い市民団体が合同で記者会見を開き、「海洋投棄阻止」に向け尹政権が国際海洋裁判所に提訴するよう働き掛ける意向を明らかにした。すでに協力関係にある日本の市民団体とだけでなく、今後は世界各国の環境団体などと連帯する可能性もある。
韓国の処理水放出反対運動では、背後で動く北朝鮮の存在も問題だ。韓国検察当局によると、北朝鮮の工作機関「偵察総局」は韓国地下組織に送った指令で、処理水放出で「南当局(韓国政府)と日本の対立を激化させることが、敵たち(日韓)の協力をぶっ壊す上で効果的」(21年5月3日付)との認識を伝えたり、「(処理水放出海域から)怪魚が出たというフェイクニュースをネットで拡散」(22年5月7日付)するよう指示していた。
処理水放出は本来、環境問題であるはずだが、反対する市民団体には「汚染水より反日運動や韓米日軍事協力反対の方が重要」(釜山環境運動連合関係者)と漏らす人もいる。
韓国政府は今月7日の日韓首脳会談での合意を受け、処理水放出の安全性を確認する視察団を23日から日本に派遣するが、韓国左派は「日本に免罪符を与えるだけ」として尹政権を批判。狂牛病騒ぎのように「健康」の問題で政権に矛先を向けている。