
韓国で毎年実施される大学共通の入試「大学修学能力試験(修能)」で、必須科目「韓国史」の出題分野が1910年から45年までの日本統治期とその直前の時期に偏っているとの指摘が上がっている。背景には左翼史観に凝り固まる歴史学会が入試や教科書執筆を主導してきた構造的問題がある。若者の反日意識拡大につながる恐れもありそうだ。(ソウル・上田勇実)
「次の文章にある条約が強制的に締結された時期を年表から正しく選んだものは?」
「日本全権大使と公使が条約書を持って宮廷に入り、条約に署名することを強要したが、その内容を見ると日本人統監をわが国に置き、われわれの外交権を日本が剥奪するというものだ。…(中略)…大使が兵士たちを動員して恐怖の雰囲気をつくり、可否を決めろと脅しながら、最初から定められた手続きもなく、外部の印鑑を強制的に奪って捺印(なついん)し、これを条約だと言っている」
これは2020年実施の修能で出題された「韓国史」の問題だ。条約は日本が朝鮮を事実上支配下に置いた乙巳保護条約を指し、正解は「大韓帝国樹立」と「高宗の強制退位」の間の期間を示した記号だ。植民地化のプロセスを時系列で正確に覚えておく必要がある問題だ。
「韓国史」の出題は毎年20問で、ほぼ半分が古代から朝鮮王朝時代の末期まで、残り半分が列強諸国との通商を受け入れ始めた、いわゆる「開港期」以降の近現代史だ。問題は近現代史の出題のうち抗日運動や「日帝」による植民地政策など日本統治期関連が占める割合が高いこと。直近3年を見ると、20年は近現代史10問中7問、21年は10問中6問、22年は12問中6問といずれも半分以上だ。
現代史は歴史的評価が定まるまで時間がかかるため出題しづらいことから少ないという側面もあるが、それにしても抗日・「日帝」関係が多い。韓国の反日感情の真相に迫った『反日種族主義』の著者の一人、朱益鐘・李承晩学堂理事はこう指摘する。
「受験生は修能の出題傾向に合わせて勉強するので、自動的に日帝時代の反日問題を解く準備をすることになる。しかも対策本の参考書や問題集、塾の授業は教科書以上に偏向的。入試や教科書執筆は左翼史観の学者が牛耳っているため、革新から保守に政権交代しても問題はそのまま残る」
「韓国史」が修能の必須科目になったのは朴槿恵政権時。その朴氏の国政介入事件を巡り、検事時代に捜査を指揮したのが現在の尹錫悦大統領だ。「反日」の若者を量産し続ける「韓国史」の弊害をなくすため、必須科目から外そうとしても、今度は「歴史軽視」の汚名を着せられかねない。朴氏の政策が、国内の「反日」ムードを抑えたい尹氏の足枷(あしかせ)になるとは皮肉な話だ。
韓国の研究者の中にも日本統治期を負の側面だけ強調して終わらせず、客観的に捉えようとする人はいる。だが、「日本に収奪された歴史という主流史観から外れれば、出世の道はおろか歴史学者として大学で職を見つけることさえ難しい」(朱理事)のが現実だという。
尹大統領は先日、米紙とのインタビューで「(日本人が)100年前の(植民地支配の)歴史のためにひざまずかなければならないという考えは受け入れられない」と述べたが、足元では大学入試の難関を突破するため「韓国史」の勉強で反日知識を身に付けた若者たちが、日韓関係改善を急ぐ尹氏に疑問の目を向けている。