
数々の北朝鮮追従路線で物議を醸してきた韓国の親北政党「進歩党」が先日行われた国会議員の補欠選挙で勝利し、失っていた議席を復活させた。今年に入って韓国を震撼(しんかん)させた各種スパイ事件で摘発された容疑者の大半が同党やその前身、統合進歩党の関係者であっただけに、今回“スパイ政党”とも言うべき同党の候補者が当選し、「ゆゆしき事態だ」(韓国メディア)とする警戒の声が上がっている。(ソウル・上田勇実)
進歩党のルーツは、1990年代初めに北朝鮮から「南朝鮮(韓国)に合法的な前衛政党をつくれ」という指令が出され、それを受けて結党した民衆党と言われる。この時は議席獲得に失敗したが、2000年に民主労働党という名で北朝鮮に追従する極左政党として初めて韓国国会に議席を得た。
その後、11年に革新系野党との合併で統合進歩党に改名したが、影の実力者だった同党の李石基議員が密(ひそ)かに国家転覆を企てようとした疑惑に関連して内乱扇動罪で有罪判決を受け、同党も「暴力革命で北朝鮮式社会主義の実現を目的とした違憲政党」という理由で憲法裁判所から解散命令を下された。
しかし、17年に同党出身者により約30年前と同じ民衆党として再結党。総選挙で当選した無所属議員が鞍(くら)替えして1議席を有するも、次の総選挙で敗北して議席を失い、20年に今の進歩党に改名して再起の機会をうかがっていた。
今回、その進歩党から南西部・全州市(全羅北道)の選挙区で実施された国会補選に出馬して当選したのは姜聖熙氏(50)。過激な闘争スタイルで有名な全国民主労働組合総連盟(民主労総)の傘下にある現代自動車の工場で20代から働き始め、非正社員を正社員に転換させる労働運動などを率いた活動家出身だ。
姜氏は当選後、尹錫悦政権を「検察独裁政権」と批判。前述の李石基元議員が恩赦された後、まだ政治活動を再開していないことと関連し、李氏の名誉回復と復権を求めた。同党所属の地方議員20人余りと共に、今後は国会で北追従路線を主張する可能性が高い。今回の当選で来年4月の総選挙にも弾みがつきそうだ。
姜氏が欠員となっている国会国防委員会に配属される公算が強いことも問題視されている。軍事機密を閲覧できる立場になるため、その漏洩(ろうえい)を危ぶむ声も上がっている。与党「国民の力」の鄭宇澤議員(国会副議長)は自身のSNSで「違憲政党の流れを汲む進歩党所属の国会議員が国家安保に関連する国防機密を扱う国防委員会に配属されるのが果たして国益と憲法秩序に符合するのか。再検討されるべきではないか」と述べた。
その前身の時代からスパイ疑惑にまみれた進歩党の候補が今回当選した背景には、まず選挙区が革新政治の地盤である全羅道であったことが挙げられる。また投票率が26・8%と低水準だったため、本来は組織力の強い最大野党「共に民主党」の候補に有利だが、今回の選挙では公認を巡る党内対立で無所属での出馬となり、その影響で票が伸び悩んだとみられる。
一方、今回の選挙では韓国有権者が“スパイ政党”に寛大であることが改めて浮き彫りになっている。あれだけ世間を騒がせた政党なのに、有権者の多くは候補者についてよく知らないままイメージ先行で投票してしまったようだ。そして「北朝鮮の核・ミサイル脅威も北朝鮮のスパイ工作も、自分の生活に直接関係してこないと忘却の彼方に消え去ってしまう」(公安関係者)のも問題だ。
共に民主党を率いる李在明代表は、自身の大統領選出馬を前にした訪朝計画を進めるため北朝鮮に「上納金」を差し出した疑惑が浮上したが、李氏は今回当選した姜氏に早速祝いの電話を入れたという。国会での親北連帯が広がりそうだ。