トップ国際朝鮮半島「餓死続出」で民心離れ危惧か 北朝鮮・金正恩氏

「餓死続出」で民心離れ危惧か 北朝鮮・金正恩氏

農業議題にまた党総会 政治論理先行、解決見通せず

2月27日、平壌で開かれた朝鮮労働党中央委員会総会で発言する金正恩総書記(挑戦通信・時事)

戦時備蓄米の補充も

北朝鮮で一部地域に餓死者が続出しているとの見方が浮上する中、金正恩総書記は異例にも農業問題を中心議題にわずか2カ月ぶりとなる朝鮮労働党中央委員会総会を開催した。民心離れを恐れ、農産物増産へ陣頭指揮を執る自らの姿をアピールする狙いもあったようだが、根本的解決が見通せない状況は続きそうだ。(ソウル・上田勇実)

先月、韓国の一部メディアが北朝鮮南西部の開城で「一日数十人ずつ餓死者が続出している」と報じ、その後韓国政府も「深刻な食糧難で餓死者が続出している」(大統領室)との認識を明らかにした。

韓国農村振興庁は昨年12月、2022年度の北朝鮮食糧(穀物やイモ類)生産量は451万㌧で前年比18万㌧(3・8%)減少したと推定しており、驚くほど減ったわけではない。韓国統計庁がまとめた金正恩政権下(12年以降)での生産量推移を見ても、新型コロナウイルスの大流行が始まった20年に340万㌧まで落ち込んだのを除けば、ほぼ昨年の水準を維持している。

こうしたことから「餓死続出」の原因は、昨年10月に北朝鮮で実施された新しい穀物供給制度が逆に流通に支障を生じさせた「分配の問題」にあるとの見方も出ているが、詳細は明らかではない。

北朝鮮の食糧難説が浮上する中、正恩氏は先月5日に予告していた通り、2月26日から3月1日まで党中央委第8期第7回拡大総会を開いた。正恩氏は総会で「(今後)数年のうちに農業生産を安定した発展軌道に確実に乗せる」ため、「否定的作用をする内部要因をその時々探し出して解消する」と述べた。

そもそも昨年末に終わったばかりの党中央委総会を約1カ月後に再び招集しようと思い立ったのはなぜか。可能性が高いのは「餓死続出」との関連だ。北朝鮮の民主化運動に関わるある韓国人識者は「住民の多くが餓死するほどではないにせよ、民心悪化を恐れ対策を立てようとしたのではないか」と述べた。

北朝鮮は核・ミサイル開発に狂奔する正恩氏の路線を、全国的に講演会などを通じて「米国と対等な国にした」などと称賛する政治教育に熱心だが、住民は食の問題には敏感で不満が噴出しやすい。「国際社会による制裁長期化に耐え得る自力経済には食糧の安定確保が必要」(韓国政府系シンクタンク関係者)という国の事情もある。

党機関紙・労働新聞は総会直後の3日付1面で、党中央委の幹部と農業担当の内閣副総理がそれぞれ実名で寄稿し、農業指導を誤ったことへの自己批判や今後への決意を述べた。幹部による懺悔(ざんげ)文の1面掲載は「異例のこと」(北朝鮮ウオッチャー)で、「人民のために幹部たちを叱責し、反省させる正恩氏の献身的姿を演出したもの」(柳東烈・元韓国警察庁公安問題研究所研究官)とも言える。

総会では安定的な農産物増産に向けた対策として、潅漑(かんがい)施設の整備や農村機械化などが強調された。だが、北朝鮮の食糧不足はもう30年間続いてきた構造的問題で、近年はコロナ禍による中国からの肥料輸入減などがこれに追い打ちを掛けたとみられる。総会を招集したり、幹部に自己批判させるなど「経済問題に対し経済論理より政治論理を先行させても根本的解決は遠のくばかり」(南成旭・高麗大学教授)だ。

今回の党総会開催を巡っては「北朝鮮式食糧安保の確保が目的だった」(高位脱北者)とする見方もある。放出された戦時備蓄米の補充や体制守護に不可欠な党・軍の主要機関などへの配給確保を最優先させるため、全国の党員に発破を掛けたというのだ。仮にそうだとすれば、さらなる餓死続出を招きかねない事態と言える。

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