
韓国の最高学府、国立ソウル大学の中央図書館内に中国の習近平国家主席の訪問と図書寄贈を記念して設置された「習近平寄贈図書資料室」が現在もそのまま運営されていることに改めて批判が上がっている。歴代大統領の名前を冠する資料室でも賛否が割れる韓国で、生存中の中国共産党トップを崇めるような施設が事実上放置されてきたことになる。(ソウル・上田勇実)
この資料室が設置されたのは2015年10月。当時、北朝鮮非核化や将来的な南北統一を見据えて中国に接近した朴槿恵大統領の「配慮」(関係者)に便乗する形で、前年の訪韓で習氏がソウル大を訪れて講演した際に図書寄贈を約束し、翌年に図書展示のための空間(約30坪)として同大キャンパス構内の中央図書館2階に設けられた。
昨秋、資料室を訪れた韓国大手紙記者がまとめたルポによると、本棚には各種辞典や中国語教材、習氏の自叙伝、家庭医学書など多様な書籍があったが、学術書や文献など資料室に見合うものは見当たらなかったという。
その一方で、2階フロアの案内掲示板には資料室の名前が一番上に記され、「国際機構資料」や「大会議室」はその下に。しかも習氏夫妻が同大訪問時に座った椅子二つがまるで「聖なる椅子」のごとく資料室に展示されていたという。
利用者はまばらで、貸し出し記録を調べてもオープンからの5年余りの間で平均9・5日に1冊、一般人への貸し出しが解禁になって以降の2年間でも平均2日に1冊という低調ぶりだったという。
それにもかかわらず習氏個人を崇拝する聖地のように7年以上も放置されてきた。設置から1年半後に発足した文在寅政権が中国に低姿勢だったことや中韓関係悪化の火種になることを恐れた大学当局の事なかれ主義などが影響したとみられている。
だが、その後、習氏の政治、軍事、経済など各分野にわたる覇権主義はエスカレートし、韓国に対しても高飛車な態度を示したため、韓国世論の反中感情が高まった。これらを背景に韓国の市民団体を中心に反中運動がにわかに活発化し、その一環として資料室の問題も改めて指摘されるようになった。
昨年、国会教育委員会の国政監査である与党議員がこの問題を取り上げた。議員は出席したソウル大総長に向かって「皆さんの学校を造ってくれた大統領の資料室はないのに、わが国を属国だと呼んだ中国共産党指導者の資料室だけがソウル大にある。ソウル大は北京大の附属大学なのか」と皮肉交じりに批判した。
保守系市民団体は今月17日、同大構内で資料室閉鎖を求める記者会見を開くに当たり、現職の大学教授や元国会議員、会社役員、メディア関係者など同大卒業生約200人の賛同を得た。その一人である元外務省幹部は資料室の問題点について次のように語った。
「大学に中国資料室を設置するなら学問の自由で説明できるが、習近平資料室というのは特定の政治指導者、しかも生存中の権力者を対象にした政治宣伝にほかならない。韓国は国家保安法で共産主義の賛美などを認めていない国だから、学問の自由を口実にしても共産主義の宣伝は許されない」
市民団体は会見で「韓国を代表するソウル大に習近平資料室が存在するのはソウル大の恥であり、韓国に対する冒涜(ぼうとく)」と指摘。大学当局に対し、今月末までにどのような立場を取るか明らかにするよう求めた。
閉鎖を求める声に対し大学側は当初、個人による図書寄贈に基づいた資料室である点を強調して抗弁したが、その後、学内世論を収斂(しゅうれん)した後に検討する可能性に言及。反中感情を抱く在校生も多いとみられ、閉鎖に向け動き出すか関心を集めそうだ。