
左派系の韓国最大野党「共に民主党」の李在明代表が各種疑惑にまみれている。宅地開発を舞台にした巨額収益金を巡る捜査が本格化する中、今度は昨年の大統領選を前に訪朝を計画し、そのための資金を北朝鮮に不正に提供していた疑いが浮上、物議を醸している。次期大統領選出馬にも黄信号が灯(とも)り始めた。(ソウル・上田勇実)
韓国メディアによると、李氏は2018年から19年にかけて当時知事を務めていた京畿道による対北事業を本格化させた。その一環として同道とフィリピン・マニラで1回ずつ開催された「アジア太平洋の平和・繁栄のための国際大会」という行事では、李氏の側近である副知事や大手下着メーカーの会長が行事に参加した北朝鮮関係者と接触。自身の訪朝受け入れを北朝鮮側に打診させたとみられている。
訪朝を進めようとしたのは大統領選出馬に向けた支持拡大が狙い。18年9月に平壌で行われた南北首脳会談では、同行メンバーに次期大統領候補ともいわれた朴元淳ソウル市長や崔文洵・江原道知事が加わったが、李氏は外された。親北派が主導する韓国左派から大統領選に出馬するには訪朝して北朝鮮のお墨付きを得ること、帰国して南北融和の使者と宣伝することが重要と考えた李氏が、単独訪朝して巻き返しを図ろうとした可能性は十分ある。
側近に近かったメーカー会長は19年、自社職員数十人を動員し、総額800万㌦(約10億4000万円)を数回に分けて中国に運び、そこで北朝鮮側の関係者に手渡した。このうち500万㌦は北朝鮮の農業支援を名目に、また300万㌦は李氏訪朝のため北朝鮮側が歓迎行事などに必要だとして要求してきた事実上の見返りだったという。
これらの疑惑は検察の捜査や海外逃亡中に拘束されたメーカー会長の証言により明らかになったもの。李氏は「小説だ」と全面否定しているが、疑惑の大半は事実とみる向きが強い。
結局、米朝関係悪化などが影響したのか訪朝は実現せず、李氏は大統領選でも敗北したが、政府承認を経ない北朝鮮への資金提供は違法であるばかりか、個人の政治的野心のため「主敵」にカネを渡す行為は大問題。与党・国民の力は「北朝鮮に巨額を上納するのは反国家行為。こういう人物が韓国の有力な大統領候補だったと考えると、身の毛もよだつ」(報道官)と痛烈に非難している。
もう一つ公然とは語られないが、李氏を巡り保守派の間で広がっている疑惑がある。李氏が城南市(京畿道)で手掛けた宅地開発で得た巨額収益金の行き先が不透明になっている問題で、李氏が野党議員はもちろんのこと、与党議員にまでそのカネをばら撒(ま)いたのではないかというのだ。
ソウル選出のある与党国会議員は先月、検察聴取のため出頭した李氏を同僚の野党議員らが大勢出迎えた場面を見ながら、本紙取材にこう語った。
「なぜ民主党議員は重鎮や幹部まで地方自治体長出身の李氏を守ろうとするのか。李氏が死ねば自分も死ぬという思いがあるからだ。では何がそう思わせるのか。政治家が動くのは結局はカネ。李氏は宅地開発で得た巨額収益金をばら撒き、買収した可能性がある」
また政府系シンクタンクの元幹部は「大統領候補を選ぶ民主党内の選挙で国会議員を長くやり党代表まで務めた李洛淵氏ではなく、李氏が一斉に支持されたのはカネの力でなければ不可能。一人当たり数十億ウォン(約数億円)ずつかもしれない。捜査妨害のため与党議員に配った可能性もある」と述べた。
民主党議員らは李氏の対北資金提供疑惑が浮上しても、「公安検察の弾圧だ」などと逆に李氏擁護で結束するが、これも「買収」の効果なのだろうか。来年4月の総選挙で公認をもらわなければならないという事情もある。
これだけの疑惑にまみれても、一部の熱烈支持者たちを中心に李氏をかばう動きは簡単には衰えそうもないが、次期大統領選への道のりが険しくなったのは確かだ。