「うわべだけの近代化」を批判

9月21日、ニューヨークで言葉を交わすバイデン大統領(左)と韓国の尹錫悦大統領(中央)(EPA時事)
9月21日、ニューヨークで言葉を交わすバイデン大統領(左)と韓国の尹錫悦大統領(中央)(EPA時事)

「新東学」の勧め

事大主義とは「大に従う」ということだ。時の大国に擦り寄り庇護(ひご)下に入って国家の存立を保つ。朝鮮半島で「事大」といえば中国大陸の王朝を指していた。だが明朝が滅び「北方蛮族」女真族の清朝が建つと、「真の中華の伝統は朝鮮が引き継ぐ」という小中華思想が興る。力では清朝には及ばないが、文化、伝統、正統性は李朝が保っているという捻(ねじ)れた自尊心がこの民族に根付く。

大に従うということで、清を倒した日本に、日本を倒した米国にと従ってきた。再び「中華の再興」が起こりつつあり、半島は米中の両方をうかがっている。

だが韓国内の保守と左派とでは重点の置き方が違っていた。新東亜(1月号)で「韓国はうわべだけの近代化」を書いた具(ク)海祐(ヘウ)未来戦略研究院長は、「19世紀末以来100年余りの間、韓国の保守右派は親米事大主義的偏向に陥っていて、進歩左派は親中事大主義的偏向に陥っている」と述べ、だから韓国は「うわべだけ近代化された不完全な近代化状態」なのだと主張する。

韓国・朝鮮では親米事大、親中事大だけで推移してきたわけではない。常にそのどちらでもない自主自立を求める動きも興ってきていた。東学がそうであり、彼らが著した「3・1独立宣言」にその神髄があると指摘する。米中両勢力のどちらにも偏らず「『中道会通』(中道相通じる)思想が21世紀の韓国の道を開く」という主張だ。

独立宣言文は日韓併合(1910年)の9年後の3月1日、ソウル鍾路(チョンノ)のパゴダ公園で東学の第3代教祖・孫(ソン)秉熙(ビョンヒ)らによって読み上げられ、朝鮮全土で「大韓独立万歳」を叫ぶ運動に発展した。

この独立宣言文は「近代国家文明へ切り替えるのに重要な文書と評価されてきた1776年の『米独立宣言文』に比しても遜色ない」と具氏は評価する。まず「私、すなわち個人の主体性を明確にし、朝鮮独立、東洋平和、人類の幸福」を謳(うた)っているからだ。

事大でどこかに従ってきた朝鮮の歴史からすれば、私「個人」が自主民であるとしたことは大きな覚醒であり決意だっただろう。しかしこの精神の不徹底が今日の親米事大、親中事大に分かれて、自主独立できない状態が続き、それが「うわべだけの近代化」ということだ。地政学的宿命よりも前に、民族の精神の確立がなされていないという指摘である。

しかし独立宣言文にはそれまで朝鮮の人口の大半を占めていた「奴婢(ぬひ)」(奴隷)の解放が謳われておらず、身分制度の改善は統治者日本によって行われたというのは歴史の皮肉である。こうした点が歴史省察の不十分なところだろう。

(岩崎 哲)

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