
今年、韓国では大統領選挙が実施され、「親北」「反日」の偏った理念で国内・対外関係を混乱させた文在寅政権から保守を標榜(ひょうぼう)する尹錫悦政権に交代した。一方、北朝鮮は前例なき頻度と多種類のミサイルを発射し、周辺国の安保リスクが増大している。激動する朝鮮半島の一年を振り返った。(ソウル・上田勇実)
3月の韓国大統領選では、まれに見る僅差で保守系野党「国民の力」の尹氏が革新系与党「共に民主党」の李在明氏を破り、5年ぶりの政権交代となった。
文前政権で繰り返し浮上した権力型不正疑惑や見境のない北朝鮮擁護政策の失敗などで、国民の間に政権交代を望む声が高まっていた。尹氏は検事として相手の政治的立場に関係なく捜査を進めた。そうした権力にこびない姿勢が評価されて野党候補に選出され、一挙に大統領に上り詰めた。
尹氏は北朝鮮ペースだった南北関係の見直しに乗り出した。非核化などで成果がなかった南北首脳会談や米朝首脳会談の仲介など対話のための対話をやめ、北朝鮮の武力攻撃を「先制・迎撃・膺懲(斬首作戦など決定的な報復)」の3段階で断固阻止すると強調した。
北朝鮮の言いなりになって縮小・中断していた米韓合同軍事演習を再開させ、対北抑止の手段として米国による「核の傘」を強化する意味で核シェアを米国に要請したとの報道もなされた。対北政策の180度転換だ。
また尹氏は、悪化した日本や米国との関係の修復に取り組んだ。特に戦後最悪とまで言われた日本との関係では、最大のネックである元徴用工判決に伴う被告日本企業の韓国内資産を巡り、その現金化を阻止する方法を模索した。
ただ、国会で過半数を占める共に民主党や革新系の韓国メディアが被害者中心主義を盾に、特に地盤の南西部・全羅道の世論を反映して現金化に慎重な尹政権を「親日派」と批判。これらが足かせとなり、日本に譲歩したと受け止められないよう苦心する様子もうかがえ、日本側の期待に応じきれない面もあった。
尹氏は11月、日韓首脳同士では約3年ぶりに岸田文雄首相と正式の首脳会談に臨んだ。元徴用工問題を巡り韓国側が解決案を示せない中、日本側が対北抑止での協力強化を重視したためだった。日米韓3カ国の連携も含め、安保分野では日韓協力が復元されつつある。

一方、北朝鮮は年初から各種ミサイルを断続的に発射し続けた。今月18日現在、日数にして30日以上、数では弾道ミサイルだけで50発以上だ。米本土を射程に置く新型「火星17型」と呼ばれる大陸間弾道ミサイル(ICBM)級も3月、10月、11月(失敗の可能性)に計3回発射され、このうち10月のミサイルは青森県上空を通過してJアラートが発令されるなど、改めて日本にも深刻な脅威をもたらした。
ミサイルの種類も多様化し、音速の何倍ものスピードで変則軌道を描く極超音速ミサイルや固体燃料の準中距離弾、潜水艦発射弾道ミサイルなどを発射。日本をはじめ西側諸国は発射兆候を事前に察知したり、迎撃するのがより困難になった現実を突き付けられた。
今年も金総書記の権力基盤が揺らぐことはなかった。国際社会による経済制裁の長期化に対して国内引き締めで乗り切っている。金氏はコロナ禍で陣頭指揮を執る献身ぶりをアピールするなど、これを政治利用する強かさも見せた。
韓国国内に目を向ければ、尹氏は支持率が20%台から30%台に低迷し続け、国会では多数派の野党が壁となり、国政運営に弾みをつけられない状態が続いた。だが、その一方で文前政権や李在明氏を巡る疑惑への捜査は本格化した。
2020年9月、黄海で漂流中の韓国公務員が北朝鮮に射殺・焼却された事件で、公務員が自ら進んで北朝鮮入りしようとしたと決め付け、事件の隠蔽(いんぺい)工作を図った疑いで文前政権時の国防相や大統領府高官が相次ぎ逮捕(国防相は後に釈放)された。また李氏が市長時代に大型都市開発を巡る収賄に関わったとみられる疑惑についても捜査が本格化している。
「捜査の手は本丸(李氏)まで伸びるだろう」(韓国識者)との見方が強まっている。