【ポイント解説】裏目に出た“囲み取材”
報道官はいわば政府の顔だ。大統領が毎回、記者会見をして懸案を説明するわけにはいかないので、報道官が定例会見を行って政府の見解と動きを公表する。日本では官房長官が1日に2回、記者会見を開き、政府の動きが逐一報告される。
大統領が就任中、数回しか会見を行わない韓国で、尹錫悦大統領になって思いや考えが国民に伝わらないと思ったのか、国民とのコミュニケーションを図る目的で「ドアステッピング」会見を行うようになった。青瓦台から龍山に移した大統領執務室に登庁する時、ロビーで簡易的な会見を行うのだ。
日本の首相が官邸に入る際、ロビーで待ち構える記者たちから声が掛かり、一言答えたり、無言のまま通り過ぎたり、懸案によっては随時、短い談話を述べたりする。このスタイルに倣ったものだ。
ところが、慣れないことをするものではない。毎朝行うため、時には「中身がない」とメディアから酷評されたりする。まして尹大統領は政治家の経験がなく、検察という堅苦しい役所にいた。当意即妙のやりとりができるわけではない。尹氏の意図とは別に“国民との疎通”が成功しているとは言い難いのだ。
この会見を「囲み」とか「ぶら下がり」とか訳されることがあるが、内容はそれほど簡易なものではない。マイクが立ち、群がる記者やカメラとの間はコロナ対策としてアクリル板で仕切られている。韓国の記者は日本とは違い、遠慮ない強い言葉で質問したりする。これに忍耐強く答えるのは相当に大変なことだ。
それが毎日となれば、ほころびも出てくる。発言を切り取り、都合のいい報道に仕立てられる。バイデン大統領との会見後の一言もそれだ。尹氏の意を伝えられるプロフェッショナルな報道官の設置が急務なのだろう。(岩崎 哲)