北朝鮮が「新型」の大陸間弾道ミサイル(ICBM)をはじめとする各種ミサイルを相次ぎ発射する中、核・ミサイル開発に必要な資金を、仮想通貨の窃取により賄っている問題が改めて浮上している。米当局は窃取された規模はここ2年で約1400億円に達するとみており、脅威にさらされている日米韓3カ国は対策強化に乗り出した。(ソウル・上田勇実)
米国土安全保障局のマヨルカス長官は先週、連邦議会の聴聞会に提出した書面の中で、「北朝鮮は仮想通貨の窃取により、ここ2年間だけで総額10億㌦(約1400億円)以上を稼ぎ、大量殺傷兵器プログラムの資金に充てた」と述べた。
韓国銀行(中央銀行)の推計によると、昨年度の北朝鮮国家予算は約91億㌦。実に国家予算の1割以上の仮想通貨が窃取されたことになる。
またニューバーガー米国家安全保障担当副補佐官(サイバー・先端技術担当)は今年7月、北朝鮮がサイバー攻撃によりミサイル開発に必要な資金の最大3分の1を稼いだと推定されると明らかにした。ミサイル開発に仮想通貨の窃取は必要不可欠だ。
北朝鮮は近年、国際社会による制裁の長期化や新型コロナウイルスの感染防止に向けた中国との国境封鎖などで、通常の貿易による外貨稼ぎの道が断たれている。核・ミサイル開発資金の確保へ仮想通貨窃取にのめり込んでいる可能性は十分ある。
仮想通貨の窃取は、主に仮想通貨取引所に対するハッキングによるもの。実行組織は北朝鮮の工作機関である偵察総局の傘下にある四つのサイバー部隊のうち「180部隊」(攪乱(かくらん)戦術などで現在名称が変更された可能性あり)だとされる。世界各地でサイバー攻撃を仕掛ける、「ラザルス」の名で有名なハッカー集団に指示を出しているのも「180部隊」だ。
韓国に脱北する前、北朝鮮の大学でコンピューター工学の教鞭(きょうべん)を執っていた金興光NK知識人連帯代表は「180部隊」についてこう述べる。
「ここ数年、人員が急増中で、私のかつての教え子も同じ偵察総局傘下で外国関連情報を収集する部隊から移ってきた。コンピューターのコーディング能力はもちろん、英語が堪能で、党直轄の人民経済大学で6カ月間、国際金融も学ばなければならない」
「180部隊」の本体は平壌だが、実際にハッキングするのは中国や東南アジアに設けた拠点からだという。IPアドレスの追跡を逃れる必要があり、窃取した仮想通貨を米ドル紙幣などに換金しなければならないためだ。
今や「180部隊」は核・ミサイル開発資金を捻出する稼ぎ頭。四つのサイバー部隊の中で最大規模になり、「金正恩から寵愛(ちょうあい)を受けている」(金代表)ようだ。
「180部隊」は仮想通貨の窃取のほか、SWIFTなどの国際金融取引システムに対するサイバー攻撃も行っている。2016年、バングラデシュの中央銀行が外部から不正に侵入され、総額8100万㌦が不正に送金された事件が発生したが、北朝鮮の仕業である可能性が高い。
北朝鮮の核・ミサイルの直接的脅威にさらされる日米韓3カ国は、北朝鮮が仮想通貨窃取で得た外貨を核・ミサイル開発資金に回している現状を重く受け止め、対策強化に乗り出した。
金融庁は先月、警察庁、内閣サイバーセキュリティーセンターと連名で国内の仮想通貨関連事業者に対し北朝鮮のハッカー集団によるサイバー攻撃を巡る注意喚起を行った。
米韓両国も先日、ソウルで北朝鮮のサイバー攻撃に対応するための外交当局間会議を開いた。北朝鮮のサイバー攻撃の事例や手法などの情報を共有し、サイバー分野での対北制裁について話し合ったという。
ただ、北朝鮮のサイバー攻撃の実行拠点が数多くある中国に対し、「制裁などで協力を求めるのは難しい」(韓国メディア)のが実情で、対策には限界もある。