韓国出身の世界的男性音楽グループ「BTS(防弾少年団)」のメンバーに対する兵役義務の問題を契機に、韓国で兵役免除の在り方が改めて問われている。免除賛成派は莫大(ばくだい)な経済効果を生み出すトップアーティストには特例を設けるべきと主張、免除反対派は国民皆兵制の下では公正さが保たれるべきだとしている。(ソウル・上田勇実)
今月15日、南東部・釜山市で2030年の万博誘致を呼び掛けたBTSのライブコンサートが開かれた。会場のスタジアムには日本をはじめ世界各国から約5万人のファンが押し寄せ、市内のパブリックビューイング会場にも1万2000人が詰め掛けた。ライブはインターネット配信され、視聴者は世界で数千万人に達したとみられているという。
ファンたちは今回のライブに特別な思いを抱いていた。最年長メンバーであるJIN(29)の軍入隊期限が迫り、メンバー7人全員が揃(そろ)う舞台はしばらく見られないと言われていたからだ。
BTSは13年にデビュー。これまでに米国ビルボードチャートで何度もランクイン、18年にリリースの3rdアルバムはアジア出身アーティストとして初めて1位に輝いた。ワールドツアーも精力的に行い、世界的人気グループの座を不動のものとしている。
メンバーが着ていたTシャツに、原爆投下後のキノコ雲と韓国国民が万歳をする写真が印刷されていたことが物議を醸したこともあった。所属事務所が株式上場した際には一時、時価総額が1兆円を突破し、話題になった。
BTSの兵役をめぐる論争の発端は、これだけの国威宣揚と経済効果を生み出した功績を評価し、兵役を免除すべきだという声が政界から上がったことだった。
BTSのファンになったことで韓国に親近感を覚え、韓国語を勉強し始めた若者が世界中で増えた。米有力経済誌「フォーブス」は19年、BTSの経済的生産誘発効果を年間46億5000万ドル(約7000億円)と算出している。BTSには「銃ではなくマイクを」と言われるゆえんだ。
しかし、兵役免除には慎重論も根強い。理由としてまず指摘されるのが、公正性に欠くという問題だ。兵役は「教育、納税、勤労とともに憲法で定められた4大義務の一つであり、忌避したくてもできない一般国民との公正さが保てなくなる」(韓国紙)からだ。
また世界で最も深刻な少子化と指摘される韓国は兵役人口の減少に悩み始めている。免除すればそうした国の事情を無視することになりかねない。
さらに制度的な壁もある。韓国では1973年に初めて芸術・スポーツ分野の兵役特例が導入され、芸術分野では兵務庁長が定める国際技術コンクールで2位以上の入賞者2人以内や重要無形文化財の伝授教育履修者などが対象。大衆音楽のアイドルはいくら活躍しても対象外だ。
このため、一時ある閣僚からはBTSが兵役特例を受けられるよう、関連法の改正を求める声も上がった。
BTSの兵役免除問題は今年に入り、与野党の国会議員から世論調査方式の導入が提案された。兵役特例適用の是非を世論調査で決めるという前代未聞の措置に、主幹省庁の国防省と兵務庁は否定的だったが、李鐘燮国防相が国会答弁で世論調査の実施を指示すると明言。しかしその後、批判を浴び、結局は調査しないことで落ち着いた。
ちなみに国防省とは無関係に実施された各種世論調査によると、BTS兵役免除に60%以上が賛成する結果が出ている。
紆余曲折(うよきょくせつ)を経たBTS兵役免除問題は今月17日、メンバーのJINが自主入隊を明らかにし、他のメンバーも順次入隊することが分かったことで、とりあえず終止符を打った。だが、特例の基準などをめぐり課題は残されたままだ。