【連載】北の核脅威と韓国核武装 <上> 「異次元の脅威」に直面

北「起こり得る核戦争」で挑発

9月25日~10月9日に行われた朝鮮人民軍戦術核運用部隊の弾道ミサイル発射訓練=10日配信(朝鮮通信・時事)

北朝鮮は先月から今月にかけ、米原子力空母の韓国入港を皮切りに実施された一連の米韓合同演習や日米韓共同訓練に刺激されたように各種弾道ミサイルを立て続けに発射した。この事態に韓国では核武装論がにわかに高まっている。金正恩総書記の意図は何か。尹錫悦政権は北の核脅威にどう対処するつもりなのか。緊迫度を増す韓国から報告する。(ソウル・上田勇実)

2023年〇月△日。黄海の南北軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)を、1隻の北朝鮮艦艇が越境して来た。これをきっかけに韓国との間で局地戦が勃発。ほぼ同時刻、韓国では大統領室や各省庁、全国の原発、主要放送局や大手金融機関などが一斉にサイバー攻撃を受けた。混乱の中、首都ソウルで火の手が上がった。韓国軍首脳部で「金正恩を消すべし」との声が上がる。斬首作戦だ。これを察知した北朝鮮は「最高尊厳が脅かされた」と判断、完成したばかりの戦術核を搭載した潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の発射準備に取り掛かる…。

これは韓国安保機関の元責任者が描いた、北朝鮮による戦術核攻撃のシナリオの一例だ。以前なら荒唐無稽な小説の類いにすぎなかったこの種の話も、今は逆に現実味を帯びている。北朝鮮が戦術核使用を法制化した上で、その実地訓練と位置付けて昼夜問わず全国至る地点から多様な弾道ミサイルを7回計12発も発射したからだ。

戦術核とは、相手に核攻撃させないため抑止力として保有する戦略核とは異なり、比較的威力が小さく、実際の戦場で使用することを想定した核のことだ。

5年前、北朝鮮が日本上空を通過する長距離弾道ミサイルを発射したのに続き、「水爆」と称する6回目の核実験を断行した際、韓国のある保守系国会議員はメディアのインタビューに「北朝鮮が防御できないよう(電子機器を破壊する)EMP弾(電磁パルス弾)を投下した上で、斬首作戦に踏み切ることは可能。金正恩氏さえ除去すれば核攻撃の命令を下す人間もいなくなる」と答えていた。

だが、北朝鮮が今回発表した戦術核使用を定めた最高人民会議法令を見ると、「国務委員長(金正恩氏)」に全権限があるものの、「指揮統制体制が攻撃される危機に直面した場合、自動的に核攻撃を即刻断行する」と記されている。仮に金正恩氏が韓国による斬首作戦で除去されても、次の瞬間、北朝鮮は自動的に戦術核攻撃に踏み切るという法的根拠を作ったのだ。

今回のミサイル発射の軍事戦略的意味について、北朝鮮核問題に詳しい金泰宇(キムテウ)・元統一研究院長はこう述べる。

「北朝鮮の核戦略が第一世代の守りから第二世代の攻めに転換されたと言える。抑止力として使用しないことを前提とした核から、実際に起こり得る局地的核戦争で勝つために使用する核に変わった。深刻な事態だ」

一方、ミサイル発射には、朝鮮半島有事を念頭に入れた米韓、日米韓による対北軍事訓練に合わせた、国内向けメッセージが込められていた可能性もある。「北朝鮮には米国に対抗する力があると誇示することで、国際社会の経済制裁で疲弊し、韓国など外部からの情報流入で思想的弛緩(しかん)が広がる国内を引き締める効果を狙った」(元韓国政府高官)とみられる。

韓国政府は北朝鮮が近く実施する恐れのある7回目の核実験に対し、単に過去6回の続きという程度の軽い認識ではない。戦術核の製造は高度な技術を要するため、北朝鮮には手が届かないとの分析もあるが、仮に戦術核完成に向けた実験なら韓国だけでなく日本など周辺国も「異次元の脅威」(韓国安保機関関係者)に直面することになる。

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