
韓国の尹錫悦大統領が記録的な支持率低下に見舞われている。就任してまだ3カ月足らずの尹氏にこれといった大きな失政はなく、大統領周辺で見られる縁故採用や記者たちへの即興発言などが国民の不評を買った結果とみられている。内政・外交とも国政運営の舵(かじ)取りにも影響が出てきそうだ。(ソウル・上田勇実)
各種世論調査によると、尹氏の「国政遂行支持率」は就任直後の5月から6月にかけ、「ご祝儀相場」や米韓首脳会談など成果をアピールしやすい外交日程もあって50%前後で推移したが、7月に入ると急落。先週末、韓国ギャラップが発表した調査結果では前週比4ポイント減の28%まで落ち込み、初めて30%を下回った。しかも不支持(60%)の半分にも満たない。
もともと尹氏は超僅差で当選したため、最初から少なくない不支持層がいるのは確か。ただ、それにしてもこの支持率急落は尋常ではない。大統領選で尹氏を支持した保守派の間でも不支持が増えている。
原因として最も多く指摘されているのが人事、特に大統領室の縁故採用だ。
尹氏の母方の親戚や長年の知人の息子がそれぞれ行政官として採用されたり、採用には至らなかったものの尹氏が北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に出席するためスペインを訪問した際に人事秘書官の妻が随行員として同行したことが分かっている。
また尹氏の夫人、金建希氏が運営していた会社の職員2人が大統領室総務秘書官室などに採用されていたほか、退任した文在寅前大統領の自宅前で文氏を非難するデモを行ってきた保守系ユーチューバーの実姉が大統領室に勤務していることも分かり、物議を醸した。
そもそも韓国は地縁血縁で固く結ばれてきた、縁故主義が根強いお国柄。わずか数人の縁故採用くらい大きな問題ではないと考えても不思議はない。
しかし、その一方で自国の指導者を見詰める国民の目線は厳しく、「公正」であることを強く求める風潮もある。文前政権の、身内に甘い不公正さに国民が失望していた時、検察トップとして政権の顔色をうかがわずに捜査のメスを入れようとした尹氏の「公正」さに国民は期待を寄せた。その尹氏が大統領当選後、縁故採用したのだから、国民としては許せないという気持ちが先立つわけだ。
また大統領室に出勤する際に記者団と質疑応答する場、いわゆる「ぶら下がり」の時に即興的でストレートな物言いをしたり、失言が多かったりしたことも不支持につながっているようだ。尹氏としては国民との意思疎通を図るイメージアップ効果を狙ったようだが、今のところマイナス面の方が大きい。
結局、尹氏は「決定的失敗を犯したわけでもないのに、小さなミスの積み重ねで国民は嫌気が差し始めた」(大手紙論説委員)というのが実情のようだ。
尹氏の支持率急落に保守系メディアは相次いで態勢立て直しを促している。朝鮮日報の看板コラムは「尹大統領の当面の課題は反対者や妨害者にできるだけ(反対・妨害の)口実を与えない知恵を得ることだ」と主張した。野党が尹氏弾劾に言及し始めたことなどを踏まえたものとみられる。
中央日報のコラムは、検察出身の尹氏は「まだ検事の匂いが残る」「矛盾する対立構図でどうにか葛藤を調整して統合すべき現実政治と国政運営には適さない」などと指摘。「今は悪党を捕まえる正義の使徒ではなく、低い姿勢で献身しなければならない第一の公僕だ。物価高・高金利の津波に茫然自失する庶民を支え、『検事尹錫悦』の成功神話をきっぱり忘れる方がいい」と忠告した。