【韓国紙】尹次期政権ナンバー2と責任政治

1月26日、ソウルで韓国大統領選の公約説明会に臨む野党「国民の力」候補の尹錫悦氏(時事)

まず総理任期の保証から

「一人の下、万人の上」である韓国の国務総理(首相に相当)が適正な権限を与えられないのは大統領制で避けられない側面がある。さらに行政府はもちろん立法、司法府に強大な影響を及ぼす帝王的大統領制で、総理は政権の盾の役割に終わるのが常だった。

文在寅(ムンジェイン)政府は歴代どの政府よりも青瓦台(大統領府)の人員、予算を増やし、“青瓦台政府”という新造語まで作られた。閣議よりは大統領府の首席秘書官会議で表明した大統領の発言がより大きく扱われ、脱原発・所得主導成長・不動産規制のような核心政策は大統領府で考案され、推進された。

守らなくても非難されない公約が責任総理制だ。憲法87条に明示された国務総理の国務委員(大臣等)任命推薦権、解任建議権は事実上死文化している。「責任総理制を通じて帝王的大統領の権力を分散する」とは“空手形”に終わった文大統領の公約だ。

曺国(チョグク)元法相の任命・解任過程で李洛淵(イナギョン)総理の建議は受け入れられなかったし、長官(大臣)次官の人事はもちろん各部処(省庁)の局長級人事も大統領府が思うままにした。人事権、予算権がない総理が責任をもって国政を運営するというのは話にならない。

尹錫悦(ユンソンニョル)次期大統領も同じ約束をしている。韓悳洙(ハンドクス)総理内定者は、「尹次期大統領は『大統領府の機能を少し減らす代わりに内閣に権限を委任し、同時に責任をはっきりと持ってアジェンダを推進してほしい』と何度も語られた」と言った。韓内定者が国会で承認されるかは見守らなければならないが、国務委員推薦書に直接署名し人選発表の場に尹当選者と並んで立った場面は目を引いた。

“脱青瓦台”を公言した尹次期大統領が総理を名実共にナンバー2にする道は総理の任期を保証することだ。国会承認手続きを踏んだ国務総理を大統領が局面転換のような政治的理由で交代させる慣行は後進国のようだ。総理18人に仕えた鄭斗彦(チョンドゥオン)前議員は著書『最高の総理、最悪の総理』で、「大統領は任期が保障され、総理は形式的な責任だけ持つので、基本的に責任政治が実現し難しい構造」と指摘した。

帝王的大統領制にメスを入れる改憲は政界の利害関係で難航しているだけに、まず総理権限を強化する方向に動くのが現実的だ。国政を総括する総理の代わりに、大統領の信任を得た側近が政権ナンバー2と呼ばれる政権はもう見たくない。尹錫悦政権が以前の政権と違いを出そうとするなら、尹氏の核心的な側近がナンバー2、3を占めて、力を誇示することからやめるべきだ。民生に責任を持つ総理、国務委員の力を育てるのが解決法だ。

(黄政美(ファンジョンミ)編集者、4月13日付)

【ポイント解説】今度は実現するか責任総理制

「責任総理制」とは聞き慣れない言葉で、議員内閣制とも違う。韓国では国務総理(首相)は大統領が指名し国会の同意を得て任命される。議員である必要はない。同じく閣僚も議員から選ばれるのではなく、民間等から登用される。学者がしばしば政府の要職を務めるのは日本との大きな違いだ。

韓国では大統領権限があまりにも大きく、権力が集中することから、不正や独断が生まれネポティズムがはびこる。大統領が退任後、訴追されるのは在任中の暴走のためだ。半面、国務総理は飾りのような存在で、「代読総理」「防弾総理」「儀典総理」とか言われ、国政のナンバー2というには程遠い。実質は大統領側近(大統領府秘書官)の方がはるかに権力を振るっていて、まるで将軍のお側用人よろしく老中(閣僚)よりも力がある。

これまで大統領制の下で責任総理制が繰り返し持ち出されてきたが、実現したためしがない。そもそもこの制度が韓国の政治風土や民族性に向いているか、という疑問もある。これまで実現してこなかったのも、その証左かもしれない。

尹錫悦次期大統領も責任総理制を公約に掲げ、総理候補に韓悳洙氏を推した。韓氏は経済官僚出身で、李明博(イミョンバク)政権や盧武鉉(ノムヒョン)政権など保守・左派両政権で要職を務めてきた。この人事は左派野党が多数を占める国会を意識したものと言われている。

首尾よく韓氏が総理になったとして、公約通りに責任と権限を持ったポストになるのかどうかは、今後を見てみなければ分からない。何しろ、韓国政治が経験してこなかった政治スタイルだからだ。その見極めは大統領府秘書陣の編成がヒントになるだろう。尹氏が大統領府と内閣の権限と役割を整理し、それがどう運営されるかにかかっている。

尹氏はこのほかにも新機軸を打ち出している。大統領執務室の龍山移転はこれまでの韓国政治とは違う新政権の誕生を強く印象付けることになる。2週間後にはその号砲が鳴ることになる。

(岩崎 哲)