文在寅氏を追及できない理由

韓国野党「国民の力」の大統領選候補(当時)、尹錫悦・前検事総長=2021年11月12日、ソウル(AFP時事)

熱狂的な“親文勢力”が存在

政権末期でも高い支持率維持

韓国の大統領は悲惨な末路をたどってきた。初代の李承晩(イスンマン)大統領から朴槿恵(パククネ)大統領まで18代11人の退任後を見ると、亡命が1人、暗殺1人、有罪判決5人、自死1人、親族の逮捕・訴追が2人だ。退任後穏やかな余生を送ったのは崔圭夏(チェギュハ)大統領1人である。“最もリスクの高い職業”と言われる所以(ゆえん)である。

文在寅(ムンジェイン)大統領は1987年に直接選挙制が施行されて以来、保守と左派が10年(2期)ごとに交代する「10年権力交代周期説」を崩し、1期5年で退任する初めての大統領になる。

そこで、政権交代で大統領の座を去ることになった文氏もやはり同じような運命をたどるのかに関心が集まる。

だが結論から言うと、どうも違うようだ。文氏は一定の政治的影響力を保ちながら、新政権が簡単には“積弊追及”できそうもない初めての大統領になりそうなのである。

こう予測するのは月刊中央4月号に「政権維持に失敗した文在寅と親文の運命」を書いた金亨俊(キムヒョンジュン)明知大教授である。理由は政権末期でも衰えない高い支持率と、無条件に文氏を支持する“親文勢力”(親文派)の存在にあるという。

左派政権が負けた理由として、金教授は①文在寅政権の失政②与党共に民主党の「自分がやればロマンス、他人がやれば不倫」という独善③李在明(イジェミョン)候補の限界―を挙げている。

文政権の失政としては経済政策、不動産対策、青年雇用などの基本的な政策の失敗、脱原発に現れる理念先行政策の躓(つまず)き、側近不正の象徴的事件である曺国(チョグク)事態など、枚挙にいとまがない。

さらに、過度な対北融和政策、にもかかわらず行き詰まった南北関係、対日対米外交の停滞、特に最悪と言われる日韓関係の放置など、大統領として見れば、これほど失政だらけの人物はいない。

だが、それでも圧倒的支持、というよりも「人気」を誇っているのだ。政権末期には支持率が20%を切るものだが、文氏は40%台を維持している。これを支えるのが政界の親文派と一般の「文在寅ファン層」の存在である。彼らは「何があっても文在寅」支持を貫く、あたかも芸能人のファンのような「活動集団」だと金教授は言う。

年齢層としては、いわゆる左派思想運動の洗礼を受けた386世代(学生運動=運動圏世代)、それと若い女性層で、「無批判的確証偏向」があると分析する。

こうした存在は往々にして「贔屓(ひいき)の引き倒し」になる。「無謬(むびゅう)の文在寅大統領に政策失敗はあり得ないという信念が強い」のだ。その「代償として政治的退行」を招く。金教授は、「親文派は世の中を善悪の対決とみて、正義実現の美名の下、不法と暴力を正当化する。ネットでの攻撃、フェイクニュース、陰謀説をまき散らす。さらに退行的権威主義文化を拡大・再生産する」と散々な批判を加えている。

こうした強固な支持層が存在する限り、「新政府が前政権の積弊清算捜査を口実に文在寅氏を迫害すれば、途方もない抵抗を招く」というのだ。

一方、文氏が民主党内での影響力をそのまま維持できるかというと、それは簡単ではなさそうだ。負けたと言っても、李在明氏が獲得した票は1600万票で、尹錫悦(ユンソンニョル)当選者との差は0・73%にすぎず、また文氏が5年前自身の選挙で得た1342万票よりはるかに多い。

李氏は党常任顧問になり、「2万人が李在明守護を自任して入党した」というから、今後、運動圏出身中心の文派と李氏を支持する派閥との主導権争いで「民主党内の権力地形が再編成される可能性がある」と金教授は予測する。

こう見てくると、尹新大統領が「前政権の権力不正を暴く」のは簡単ではなさそうだ。6月の統一地方選、2年後の国会議員選挙で勝利して、国会で多数を占めたとしても、相変わらず親文派、文在寅ファンが堅固ならば、「公正と正義」をかざしても通用しないことになる。

(岩崎 哲)

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