韓国に半島有事への警戒感 ウクライナ危機と共通点

「プーチンも金正恩も独裁者」核の脅威と地政学的宿命

ロシアによるウクライナ侵攻は、さまざまな点で韓国に安全保障上の課題を改めて突き付けている。特に韓国とウクライナは核を保有する独裁国家と隣り合わせ、強大国に囲まれた地政学的な宿命まで共通する。このため朝鮮半島有事への警戒感も高まっている。(ソウル・上田勇実)

日本では連日、ウクライナ危機に関するニュースが大々的に報じられているが、韓国ではちょうど大統領選とオミクロン株の大流行が重なり、国民の関心はそれほど高くない。戦争に伴う原油価格の高騰など生活に直結する問題には敏感だが、「ロシアの暴挙」を糾弾し、「ウクライナの惨状」に心を痛める雰囲気はあまり広がっていない。

ウクライナのゼレンスキー大統領=3月21日(大統領府提供、AFP時事)

それでも、この戦争が韓国にとって「対岸の火事ではない」と警鐘を鳴らす声は上がっている。韓国とウクライナが直面する安保危機には構造的な共通点があるためだ。

政府系シンクタンク・国家安保戦略研究院のイ・ソンフン氏は最近のリポートで、ウクライナ危機が韓国安保に示唆する課題を次のように指摘している。

「ロシアの攻勢的な軍事ドクトリンと独断的な意思決定構造は北朝鮮と類似する。そのため北朝鮮による誤認、誤判のリスク、戦術的核兵器の実用化などへの備えがなければ、特に核のリスクが現実のものとなった場合への対応は容易ではないだろう」

韓国紙・朝鮮日報は、ウクライナ侵攻を命令したプーチン露大統領と朝鮮半島の赤化統一(韓国の共産主義化)をもくろむ北朝鮮の金正恩総書記は、核の脅威をちらつかせる「同じ全体主義独裁者」だと指摘。意図的であれ偶発的であれ侵攻の可能性を念頭に置くべきだとし、「金正恩はプーチンより核を悪用しかねない。もし局地的な軍事挑発をした後、核カードを切ってきたら、われわれはまともに対応できず、核の捕虜になる恐れもある」と警告する。

また韓国とウクライナは「強大国の狭間で生存しなければならない地政学的宿命を帯びている」(韓国紙・毎日経済新聞)という点でも同じだ。

ウクライナは帝政時代や旧ソ連時代には常にロシアの支配下にあったが、ソ連崩壊後に独立国の地位を得たことで、ロシアと欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間に挟まれている。韓国は自由民主主義と市場経済という価値観を共有する日米と、全体主義国家のロシア、中国、北朝鮮との間に立たされ、特に米中対立の狭間(はざま)にいる。韓国とウクライナは「同病相憐れむ関係」(同紙)とも言えるのだ。

韓国の尹錫悦次期大統領=3月10日、ソウル(EPA時事)

先月の大統領選で当選した保守系野党「国民の力」の尹錫悦氏は、「強固な安保態勢で自由と平和を守る」と繰り返し強調してきた。駐韓ウクライナ大使と対面で会談した際には「ウクライナが一致団結してロシアに抗戦するのを支持する」と述べ、物資の提供を申し出た。先週はウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談も行った。

ウクライナの抗戦を支持することで、暗に北朝鮮の軍事的挑発に断固として臨む決意を示したものだ。

ところで、正恩氏はウクライナ危機をどのような心境で眺めているだろうか。

最大の関心事は「米国の関心が自分たちに向いているのか、また北東アジアでの米軍の軍事力がどう変化するのか」(元韓国政府高官)にあるとみられる。

バイデン米大統領はウクライナ情勢への対応に追われ、北朝鮮への関心度が低下しており、米朝が真摯(しんし)に対話する状況ではない。一方、米国はロシアとの全面戦争に至る道を避け、北東アジアでの米軍の兵力は減っていない。その上、尹氏当選で米韓合同演習が従来の規模と内容で実施される可能性が高い。

正恩氏としては「米韓の軍事態勢が北朝鮮の核・ミサイル脅威を上回ることへの懸念」(同高官)を抱いている可能性もある。